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このときになって俺はやっと、村本先輩が自分自身の絵を消した理由がわかった。同時に宇和野先輩の洞察に驚いていた。
「村本先輩は鮎川先輩と一緒に東京、行きたかったんですね。でもそれがかなわなかったから、鮎川先輩から身を引こうとしたんですよね」
「……ああ」
真面目な性格だからなおさら思いつめたのだろう。悲観するのも無理はない。
「そして村本が描き換えたのは最初だけだよな」
村本先輩は、はっとなった。
宇和野先輩の洞察はまたしても的を射ていた。ということは。
「二回目は鮎川先輩が消えていました。つまりこれって――」
「鮎川も村本と同じ気持ちだったんだろうな」
そばにいられないなら、大切なひとの足かせになってはいけない。さよならしてあげるのが優しさだと。
鮎川先輩も、そんなふうに思っていたのか。
「けれど鮎川先輩が描き換えた絵は、村本先輩が右側――つまり結奈の方を見ていました。この意味もわかりますよね」
無関係の俺まで胸が苦しくなる。
「ああ、鮎川の描き換えた絵を見てはじめて気づいたよ」
村本先輩は素直に認めた。
俺はもう、いてもたってもいられなくなった。
「宇和野先輩、お願いがあります! 鮎川先輩を連れてきてください!」
「おうよ、任せろよ!」
宇和野先輩はすぐさま立ち上がった。俺の意図を的確に察してくれたらしい。
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