1.底辺エロ漫画家

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 帰宅ラッシュをギリ回避した時間帯。天木はお土産のサイン本を胸に抱きながら、下り線の電車に乗った。ロングシートに座った瞬間にどっと疲れが押し寄せる。膝の上においたリュックを抱きかかえて深い溜息をついた。それにしても徹頭徹尾むかつく野郎だった。いや、桃プリの性格が悪いわけじゃないのだが、あいつを前にすると己がいかに底辺かを思い知らされるようで、非常に腹立たしい。要するにこれは八つ当たりだ。 彼がトートバックから、いそいそ次の新刊を取り出したとき、天木の脳内には「メルカリで売ったろか」の考えしか浮かばなかった。売れっ子先生の新刊ならサイン入りで転売すれば、高値がつくに違いない。そんな下心を知るよしもない桃プリは、意気揚々とサインをして両手でエロ本を差し出した。 「発売日過ぎたら速攻でメルカリしよ……」  しかし、桃太郎プリンス先生の新刊「もちもちふわふわ~うさぎ小屋で禁断の~」をフリマアプリに出したとたん、速攻で垢BANされた上、桃プリ本人に転売がバレた。  50万人のフォロワーがいるインスタで「あんころぬん先生(汗)」と新刊の写真がアップされ、天木は更なる恥をかく羽目になった――。  
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