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「だってメルカリで僕のサイン本をす~ぐ売っちゃうくらいだから、僕との約束も反故にされちゃうかと思ってました」
「それとこれとは違うんや」
腹は立つけど仕事仲間として利用しない手はない、みたいな? 柄になく嫉妬もするけど、あなたに興味があるといえばある、的な――。知らんけど。
やたらと親身な桃プリから顔をそむけて天木は手元に配られた紙に目を落とした。頬杖をつくふりをしてそそくさと顔を隠す。
その理由は、桃プリをはさんで向こうにいる、ロリータファッションの鋭い目つきだった。
(だれ? あの人……)
こそっと指の隙間から見ると、つんと前をむいて、たわわなフリルがついたヘッドセットがちょこんと小さい顔の上に乗っていた。
「――なんやあれ……っ!?」
あっぶね、こっち見た。天木のちいさな独り言にすばやく反応して、エメラルドグリーンの双眸が自分をにらみつける。大きな瞳がホラー映画のようにぎゅるんとこちらを見た。心臓がばくばく音を立てて、胸に手を当てて浅く息をする。ミネラルウォーターのキャップをひねり、慌てて喉を潤した。
「……なんですか」
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