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さあ、手を見せて?
「両手の手のひらを見せてください。」
僕はズラリと列に並んでいる10人ほどの、僕を引き取りたいと申し出てくれた人達の手を順番に見て行った。僕にはこの人達がどんな意図で僕を引き取りたいのか全く分からない。情報がないのだ。
ただ唯一の安心材料は神殿が厳選してくれたらしいので、いきなり殺されたり、奴隷に落とされたりという不安はない事だ。そこは僕も神殿とじっくり確認したから大丈夫だと思う。
ふと僕は並んでる人達が数人、僕をねちっこく見つめている事に気がついた。あれ…、もしかしてこれってフィーリングカップル的な対面じゃないよな?
僕は今更ながら、急に背中に冷たい汗が流れていくのを感じた。ああ、あんなに神殿でお爺さんと話をしたのに、そっちの話はしてない!
僕は自分が、目の前のじっとりした眼差しを送ってくる男の人の性的対象ではない事を願った。
この世界の構造も、地理も、人種?も何にも分からない僕が唯一分かるものは手相あるのみ。
目の前の人達は、とりあえず人間に見える。だったら元の世界の手相も通用するのではないか。回らない頭を振って一生懸命出した答えがそれだった。
大体、ここはどこなんだ。目の前の妙にニヤついてる外国人風のおっさんを眺めながら僕はこれまでの経緯を思い出して人知れずため息をついた。
僕が目を覚ましたのは、硬かったが清潔なシーツのベッドの上だった。
兵士の様な服を着た無言の二人に回収されて簡素な部屋に通された事はぼんやりと覚えていた。そう言えば兵士に連れていかれる時に、周囲に沢山の人間が騒めいていた気がする。
ふと、ベッドで横たわっていた僕に呼びかける声がして、僕は何度か瞬きをして意識を浮上させた。僕はゆっくりと起き上がった。
目の前には長いローブの様な豪華な衣装を着ているお爺さんと兵士のような人がいた。
朦朧としてた時には兵士っぽいと思ったけれど、目の前にいる人は兵士というよりもっと立派な騎士という感じだった。
僕が二人を見上げてじっくり検分していると、上品なお爺さんは急に面白そうに目を和らげて言った。
「フホホ、100年ぶりの異界の漂流者は若く見えるが何とも剛の者よな。して、ヌシはどこから来たのだ?」
「…ここはどこなんですか?…え?今、異界の漂流者っておっしゃいましたか?」
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