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マリモとキムチ
「よく聞いてくれ。今の生徒会は、“王道学園”というものにぴったり当てはまっている」
「おうどう……がくえん?」
自室に戻ってきて早々、遊から至って真面目なトーンで話を切り出された。
聞いてみれば耳馴染みのない言葉。ここまで遊が真剣な顔をするのも、ちゃんとそういうときかおふざけパラメータマックスかのどっちかである。
ただし、遊が自発的にふざけることは滅多にないので、前者の方だろうか。
「そう。説明すると長くなるんだけど――」
……15分くらい経っただろうか。
遊の長い説明も何とか理解できた、と思う。多分。
つまり今、“王道学園”っていう創作BLの定番設定に近い状況になってるってことだよな。
俺様の会長、腹黒王子の副会長、チャラ男の会計、寡黙な書記、双子の庶務。
今の生徒会はこれが全て揃っているから役満らしい。麻雀はよくわからないが、とにかくすごい役が揃ってしまったらしい。
「で、その転校生ってのはいつ来んの?」
この生徒会がいる学園に、突如として現れる転校生。転校生の魅力に惹かれていく役職持ちの方々、先生。親衛隊は激おこで治安最悪。いったいどうなっちゃうの〜!? みたいな流れらしい。
その肝心の転校生の来る時期はわからないんだろうか。
「新入生歓迎会に参加してる描写は多いから、それまでには来るかな」
「去年は5月にあったよな。てことは1ヶ月以内には来るのか……」
今年はいろいろな事件が起こるかもしれないらしい。まあ生徒会でも無いわけであんま関係ない気もするけど……
「吟、今関係ないって顔した。確かに直接は関係ないかもだけど、巻き込まれると面倒だから。一応注意喚起した」
「あー、わかったってば」
「童貞より先に処女無くしてもいいならいいけど」
「それはよくないです……!」
処女の方が無くす危険性高いんだもんな、この場所。いやはやなかなか怖い世界に踏み入ってしまったものである。
「あと、転校生の容姿は基本同じ。瓶底メガネにもじゃもじゃ頭。襲われないように整った顔を隠す目的が大半かな」
そんな理性を失うほどお綺麗なお顔をお持ちなのか。
というか、もうちょい変装をまともにできないのか? 近くにドンキしか無かったのかな。
それにしても、瓶底メガネもじゃもじゃ……
「マリモ買いたいな……」
「購買で売ってるよ」
「えっ」
何でもあると思っていたとはいえ、マリモまであるのはさすがに驚きである。どこの誰の需要を見据えているんだ。いや、オレみたいなやつか。癒しって大事だし。
「丸いもの好きだよね。ベッドとかぬいぐるみでいっぱいだし」
「敷地内にゲーセンあるのが悪い!」
「無駄にクレーンゲーム上手いから貯まってくんだよ。……お腹空いたし、漫画描く前に食堂行かない?」
「オレも腹減ったし行くか」
結局話が転々としたが、食欲には抗えない。
転校生に関する話はまたあとで遊に聞くことにする。腹減ったら考えることもできないし。
軽く準備をして、部屋を出た。
「もしかしたら、“食堂イベント”ってのがあるかもね」
「食堂イベント?」
移動しながら、そんな話を切り出された。
食堂ってことは、食堂で熱いフードファイトが繰り広げられているところに颯爽と現れた期待の新人! その名も転校生! わんこそばを食べる手が止まらなくてお椀の高さが校舎を超えそうだ! 生徒会もびっくり仰天! 的なやつだろうか。
いや、そもそもメニューにわんこそばなんてないか。
……こんなことを考えていたら、余計お腹空いてきた。
「簡単に言えば、初めて生徒会と転校生が邂逅するタイミングだね」
「へえ、最初に会うのは食堂なんだな」
そんなことを話していると、ちょうど食堂に到着した。
オレらみたいなモブは光で浄化されてしまいそうなくらい、とにかく豪華でキラキラしている。一生で行くかわからないくらいの、高そうなレストランと見間違えるほどだ。
「今日は生徒会はいないみたいだな」
「ほんとだ」
ここは、1階は一般生徒用で2階は生徒会用なのだが、大体1階の人数でいるかどうかがわかる。ちなみに生徒会がいらっしゃる日は、席の埋まる速度が恐ろしく速いので席争奪戦が開催される。
巻き込まれたくないから、そういう日は購買で買って部屋で食べるけど。
食堂に見に来る方々は、生徒会が食べるところを見るだけでご飯が進むらしいので、生徒会はイコールでキムチだと思っている。
適当な席に座り、メニューを見る。
ここの注文方法はタッチパネル式だ。しかも料理はウェイターさんが運んできてくれる。至れり尽くせりである。
「吟は何にする?」
「ラーメン」
「また?」
「またとはなんだ。ここのラーメンは至高なんだぞ? 濃厚でだしの効いている汁、ベストな太さで絶妙な食感の麺、各地から取り寄せられ厳選された具たち、全てが合わさって本当にめっちゃ美味いんだぞ」
「そっか。俺はハンバーグでいいや」
いつもここのラーメンの凄さをこんなに語っているのに、遊にはなかなか伝わらない。もうラーメンの親衛隊でも作ろうかな。ラーメンさんの汁で舌が溶けちゃう……なんか気持ち悪いな。やめよう。
「お待たせしました」
美味いだけでなく、完成して運ばれるまでが凄く速い。食べ盛りの男子高校生たちにとって、これはとても魅力的である。
しかしその分、お坊ちゃま基準の相応の値段はするんだけど。でもこの料理にしてこの値段ありって感じなので、満足している。
ここでバイトとかしたら、時給めっちゃ高そうだな。最高賃金を超えてきそうである。
「ここってバイトとか無理かなあ」
「出来ますよ」
「まじすか!?」
それだけ言って、ウェイターさんはそのまま立ち去ってしまった。なんだ、特別な試練とかが必要なやつか? どんな試練かに気づくまでも試練、ということか? 料理スキルレベル10くらい必要だったりするのか……自炊はするけど、オレはせいぜいレベル4くらいである。厳しいだろうか。
「吟、バイトするの?」
「最近ゲーセンに溶けてるからさ、ここで出来たら給料高そうと思って」
「確かに。……ゲーセン行くのが悪いけど」
余計な一言が聞こえたような気がするが、気にしない気にしない。
試練のことも後で考えよう。レベル上げ、しなきゃな……
「そういえば次の漫画、幼馴染はどう?」
「定番だけど最高。やっぱりどこ行っても幼馴染に帰ってくるよな」
「帰ってきちゃったんだよね」
「幼馴染といえば、お互いしか知らない秘密、小さい頃から秘めていた思い――的なやつだろ」
「そうそう。1回疎遠にして、復縁する感じにしようと思ってる」
「天才か?」
「よし、これでいく。部屋戻ってキャラ考えよう」
「そうするか」
お昼も食べ終わり、キャラの設定を話しながら部屋に戻った。
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