今日から私は。

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 ***  夢を見た。まだ龍城が親と実家で暮らしていた頃の夢。彼は私に“ちょっと付き合って欲しいんだけど”と言ってデートに連れ出したのである。  が、その場所が何故か、ホームセンター。お互い用事があって、デートができるのはお昼からだった。ホームセンターの四階のフードコートで一緒に食事して、そこから“買いたいものがあるから付き合って欲しい”と言われたのである。  それから“今日のお昼、特に好きなものを選んで食べて欲しい。何でも、おなかいっぱい。全部奢るから”とも。ああ、その時も。彼は大食いな私がやたらとハンバーグやらカツサンドやらグラタンやらを雑多に食べているのを観察していたはずである。  自分の頼んだお蕎麦が伸びてしまっていることにも気づかないまま。 『何で私が食べてるところばっかり見てるの?』  不思議になって尋ねると、龍城はちょっと照れくさそうに視線を逸らしてこう返してきたのである。 『いや、その……君が、ごはん食べてるの見るの好きだし、それに』 『それに?』 『……君が、一番美味しそうに食べる料理を、最初に練習しようかなあって……』  なんとも、可愛いことを言ってくれる。思わず、私の方も顔が熱くなってしまったほどだ。その後、自分のきつね蕎麦が伸びてしまっていることに気づいて、慌てて掻きこんでいたことも含めて。  ホームセンターに来たのも、その“一番最初に練習する料理”のために必要な調理道具などを、私と一緒に選びたかったということらしい。一緒に住みたいから、こういうのも二人の好みで選んだ方がいいと思って、と。まだ、同居を始める時期さえ決まっていなかったというのにだ。  いつでもどこでも、ずっと前から念入りに準備。そのすべてが私のため。  彼は、そういう人だった。夢の中の私はどこまでも幸せで――目覚めた時、頬が濡れている事実に気づかぬフリをしたのである。
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