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『卒業証書、売ります』
その看板は、人目のつかない裏通りの更に奥に、ひっそりと立っていた。卒業証書売ります? 何をアホなことを言っているんだ。そんなもの買ったところで、何の意味もないだろう。
そんなことを考えながらも、足は不思議とその店へと吸い寄せられるように歩み寄って行った。昼間から一人酒をしていた為、変な酔い方をしていたのかもしれない。
ガラスの引き戸を開けると、埃っぽい店内のあちらこちらに額縁が飾られていた。中身は、どうやら卒業証書のようだ。本当にこの店では卒業証書を売っているらしい。
「いらっしゃいませ」
店の奥から、しわがれた老婆の声が聞こえてきて、思わず背筋が伸びる。店の最奥、レジのある座敷にその老婆はちょこんと座っていた。ローブのような衣服を身にまとい、フードを目深に被っている為、人相も表情も読み取れない。ただ口元だけが、三日月のようににやりと笑っていた。
気味の悪い老婆だ。率直にそう思った。こんな店で買い物などしてもろくなことになるまい。私はすぐにその店を出ようと踵を返した。
「どのような卒業証書をお望みですか?」
背中を向けた私に対し、老婆が声をかけてくる。その声に不思議な力を感じ、私は思わず振り返った。
「どのような、とは?」
私が問いかけると、老婆はひっひっひと笑う。こんな胡散臭い笑い方をする老婆が実在することに驚きを隠せない。
「貴方が求めた卒業証書を手にすれば、たちどころにその知識が貴方のものになるのですよ」
「どういう意味ですか?」
私が尋ねると、老婆はまたひっひっひと笑い、説明し始めた。
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