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曰く、ここで手に入れた卒業証書は、高校や大学のものであればその勉学の知識を、専門学校であればその専門の技術を得られるというのだ。
そんな都合のいい話があってたまるか。私はそんなことを思いながらも、店内の見本をぐるりと見回す。どの卒業証書もそれなりの値段がした。ただの紙切れ一枚にこんな金を払うのはバカバカしい。だが、老婆の言うことが本当だったなら?
私は好奇心に負け、手頃な値段である大学の卒業証書を手に取った。自分が卒業したところより多少偏差値の高い大学だ。もし老婆の言うことが本当なら、私は今より頭がよくなるということになる。
「まいどあり……」
ひひひ、と老婆が笑いながら、卒業証書に私の名前を書き込んだ。これで効果がなかったなら、私は数千円を溝に捨てたことになる。まぁ、ぼったくりにでも会ったと思えば許せる値段か。
「帰ったら枕の下にそれを敷いて寝てみなされ。さすれば次の日にはその知識が手に入るでしょう。使い過ぎには注意が必要ですが」
なんだそれは、麻薬か何かか。やれやれと思いながら私は店を出る。またどうぞ、という老婆の声が、耳元に残り、まとわりついていた。
翌朝。私は言われた通りに枕の下に敷いておいた卒業証書を引っ張りだし、改めてそれを眺める。私の名前が入った卒業証書。これは履歴書に使っても問題がないものなのだろうか。疑問に思いながらも、物は試しと本棚から教科書を適当に取り出す。捨てられないまま何となくとっておいたものだが、中身はちっとも覚えている自信がない。在学していた頃は授業の記憶より、寝て過ごした記憶の方が強く残っていた。
だがどうしたことだろうか。試しに開いた英語の教科書、私はその文法や単語の意味を、まるで昨日勉強したばかりのことのように、鮮やかに思い出すことができた。数学の教科書を取り出せば公式の意味や計算式が理解でき、世界史や日本史などの知識も次々に湧いて出てくる。凄い、まるで脳が若返ったようだ。
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