卒業証書、売ります

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 変化はそればかりではなかった。職場に出勤してみれば、皆の扱いがいつもより優しく感じた。 「なんだ、なんか今日は皆機嫌がいいな?」 「そうですか? いつもこんなものですよ、そんなことより聡明な先輩にまた教わりたいことがあるんですけど」  聡明な? そんなことを言われたのは生まれて初めてだ。何かの皮肉だろうか。何より、この後輩が私にそんな頼ってくることなどなかったはずだ。何か腑に落ちないものを感じながらも、私はその後輩の質問に対応した。いつもよりすっきりした頭であるせいか、明快な回答を行えたように思う。後輩も私の対応に満足しているのか、上機嫌に笑い、言った。 「流石先輩、いい大学卒業してるだけありますね!」  何を言っているんだ。私はその辺の普通の公立学校を卒業しただけの、と考えたところで、はっとなる。昨日の卒業証書。あれの力で、私の出自が変わっているのだ。  私は数千円を溝に捨てたどころか、とんだ拾い物をしてしまったようだ。
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