卒業証書、売ります

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 そして、私はその老婆の店に通うようになった。今の知識だけでは物足りない。私は自分の出た大学と同じ学部の、この国で最も偏差値の高い大学の卒業証書を購入した。一度目のものより値段は張ったものの、効果はてきめんで、忘れかけていた知識を補強して余りある知識が私の中になだれ込んできた。更に、今の仕事で使えるであろう学部の卒業証書も次々購入した。それらを枕に敷いて寝るだけで、翌朝には職場での私の扱いも格段に上がり、仕事も上手く進むようになった。  知識が金で買える。こんな効率的な話があるだろうか。どんなに専門書を読んでも覚えきれなかったことが、たった数万のコストで済んでしまう。おまけにその肩書まで手に入ってしまうのだ。私は無敵の気分だった。  私は大学の知識だけでは飽き足らず、今度は専門学校の卒業証書に手をつけ始めた。美容師の専門学校の卒業証書を手に入れては自身の散髪を行ってみたり、料理の専門学校の卒業証書を手に入れては自慢の料理を振舞ったりした。  専門職の知識はそれ相応の値段がしたが、私はその得た知識を利用し、デイトレードなどの副業に手を出し、収入を得るようになっていた。医大の卒業証書は流石に数百万単位の値段がしたが、実際に学校に通うことに比べたら安いものだ。  そうして私は無類の知識人として、確実な地位を手に入れていった。周囲の私を見る目がどんどん変わってもてはやされるようになり、果てにはテレビにまで出演できるまでの立場になっていった。素晴らしい気分だった。今までの冴えない人生は何だったのか。いつクビになってもおかしくないとびくびく暮らしていたが、いまやどこの業界からも引っ張りだこだ。人生とはこんなに楽しく、楽なものだったか。笑いが止まらないとはこのことだった。 「いやぁ、あんたのおかげで私の人生は鰻登りだよ」  卒業証書を選びながら、老婆に話しかけると、「それは何より」と老婆が笑いながら答えた。心なしか、以前より声に艶が出てきている様子だった。私の払いがよくて、いい生活ができていると見える。 「これからもよろしく頼むよ」 「いえいえ、こちらこそ。無理のない範囲でよろしくお願いしますね」  やれやれと思う。これだけ稼ぎがよくなったのだ、もはや卒業証書を購入することに無理をすることなどありはしない。私は笑いながら、次なる知識を棚から選び出した。
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