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「──だからさ、最後に海に行こうよ」
日向の声は水中みたいにくぐもって聴こえた。
「……なんて?」
「だから、想い出作りに海へ行こう。ほら、いつか行きたいなって話してたじゃん」
「違う、その前。日向……入院するって?」
日向は事もなげに「うん」と頷いた。わざと表情を消しているみたいに。
「卒業式にも出られないかも」
「そん、そんな長く入院するのか」
「長いっていうか、永遠に? 僕もう、帰ってこられないかもなんだよね。あと半年もないってさ」
あれほどうるさかったセミの声が聴こえなくなった。自転車のハンドルを握る手に、嫌な汗がにじんでくる。八月の下り坂は急に涼しくなった。
「……いいよ。行こう、海」
そう声を振り絞ると、まっしろな顔に向日葵みたいな笑みが弾けた。
夏休みが始まりを告げた、学校からの帰り道のことだった。
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