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敷地の端には木が二本植えられっぱなしになっており、ネットの高さに紐が掛けてあった。跳躍の疲労とボールへの恐れで、ガクガクと足が震える。
「俺がトス上げるから。ヒロは須王にタイミング合わせて跳んでね」
紐を挟んで2対1。
亮君が正確なトスを上げ、須王君がアタックのモーションに入る。
バチンと軽く弾かれたボールに一歩も動くことが出来ず、私は固まったまま真っ白になってしまった。
***
「まあ、無理だわな。急には」
私と須王君は、木陰に並んで座っていた。亮君は近所のコンビニのトイレを借りに行っている。
「でも、山下サン、偉いよな」
低い声で、須王君はボソボソ喋った。偉い? 私の視線に気づいて、彼は前を向いた。
「キャプテンになってから、頑張ってる。下手だとか言われても、言い返さずに努力してる。偉いよ」
「言い返せないだけだよ」
慌てて否定した。須王君は私をチラリと横目で見て、また目を逸らした。
「別に、それでもいいんだ。俺にはそう見えるから」
「…………」
「俺、小さい頃からデカかったから、勧められてチームに入ってた。んで、センターポジションに入れられてさ。すげえ怖くて」
まさか「百獣の須王」と呼ばれる彼にそんな過去が。小学生の彼の姿に自分が重なって見えた。
「上級生のスパイクが怖かった時に、コーチが言ってくれたんだ」
「……なんて?」
尋ねると、須王君は私を見て口の端だけ笑った。
「『防御じゃなくて、《ハイタッチ》してると思えばいい』って」
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