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「西校〜、ファイッ」
「オー!」
「ファイッ」
「オー!」
私はレギュラーでないにも関わらず、ランニングの先頭に立って走っていた。二つ結びのおさげが肩のあたりで跳ねる。季節は10月。今月末から春高の予選が始まる。
「山下、速いって!」
後方から、不満そうな吉野さんの声。「あ、すみません」とペースを落とすと、「落とさんでよかよ!」と張りのある御影さんの声が飛んできた。そのまま隣に並ぶ彼女は息が少し上がっていた。
「キャプテン、体力あるけんねえ」
「走るだけならいつもやってるから」
「全部上手くなっとるよ! アレは今日実行するん?」
「うん。もう監督に言ってる」
御影さんがニヤリと笑う。私も照れ笑いした。
ひと通りウォームアップしたところで監督がやってきた。私への視線に頷いてみせる。
「今日はレギュラー選考をやり直す。山下がみんなの許可を得たいそうだ」
途端に空気がざらついた。横山さんが後列の私を振り返る。バチバチの付けまつげが睨んできて、一歩後ずさった。それでも固い唾を飲み込んで、震える声を押し出した。
「じ、条件があるの。みんなのアタックを私がブロックできたら、レギュラー入りさせてください」
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