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それは、春に九州から引っ越してきた御影さんだった。群を抜いて上手く、入部当日にレギュラーの座をつかんだ人。
ショートボブで大きな目の彼女は、私のそばに来て言った。
「私と練習しよ。自分でやらんと、チームの状況も分からんやろ」
御影さんは私を入れて、手近なところにいる一年生二人を呼んだ。
「でも、私、本当にこんなのできないし......」
中でも難しいと思うのは、近距離でレシーブ、トス、アタックをそれぞれが担って練習をするメニューだ。全部苦手なのに、私が入ると邪魔でしかなくなる。
「走ってつけた体力はどこで使う気なん?」
御影さんが笑う。
「いつも走ってばっかりやん」
「......ですね」
頬を掻く私に、御影さんはボールを渡した。久しぶりのボールの感触。その縫い目をじっと見つめた。
とはいえ、感慨に浸ったのは束の間。結局のところ私が触ったボールは一々狙いとは別のところに飛んでいき、アタックはことごとく空振りだった。
「目を瞑らんと!」
御影さんの叱責に目頭が熱くなる。自分のダメさが晒されて、遠くでは私を嘲笑う声が聞こえる。早く終わりの時間になるようにひたすら願い続けながら、私はボールを追った。
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