私を私足らしめるもの。それから、幸せについて。

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私を私足らしめるもの。それから、幸せについて。

久しぶりに、ペンを取る。 否、そういう表現をしてみただけで、事実とは少し相違がある。正しくは、スマホのメモ帳アプリを開いて、文字を打つことにした。……「少し」ではなく、大分違うかな。 味気無いクセに忙しない日々に、ふと与えられた休日に突然手持無沙汰になって、我に返る。 私を私足らしめるものはなんなのだろうか、とか。 この先私は何処に生きたいのかとか、もう三十歳にもなるのに私は何を掴んでいるのだろうかとか、これから死に向かって進んでいくのに何も用意していないなとか。 そうなるともう、止まらない。 今、何の為に生きていて、そもそも私は何の為に生まれたのか。 世界中の辛いニュース。そんなに広い目で見なくても、日本中だけでも事足りてる。県内でも、自殺者は毎年沢山居て、虐待件数は年々上がる。 ただ平凡にのうのうと歳を重ねてきた私は、時間の重みを知る。愕然とする。 自分の無力さに。無知に。積み上げてこなかった、沢山のことに。 ただ、本当に、忙しなく生きていただけで。 すっかりテレビに映る芸能人の人達は年下になった。起業家だと語るYouTuberも年下。気が付けば、コンプレックスだった目の下のクマは、クマだけじゃなくて小じわも目立たせてしまうようになった。 救いたいと思う沢山の命の救い方も知らずに大人になった。 かつて、子供の時に私が嫌っていた、あの、『ただ歳を重ねただけの』大人に。 そんなことに漠然とした焦りを覚える。 結婚もした。出産もした。正社員で働いてる。ーーーーだけど、と、思う。 それは私の安心材料にはならないし、それだけでは満たされない心がいつだってある。 私は私の人生に、もっと色々なことがしたかったはずだと気が付く。 遅かった?ーーー否、気付いた日が一番若い。今からでもきっと、遅くはない。 そう思うのに、全てをやろうとすると途方に暮れるし、妻として、母親として、本当にそれでいいのかと考えてしまったりもする。 苦手な家事をこなせてもいないのに。子供の為にもっと時間を使えばいいのに。 私は、私のしたいことをしてもいいのだろうか、とか。 そもそもしたいこととは?とか。 沢山ある。けど、全てを選び取ることは無理だ。 そんなことを思いながら、また時間を重ねるのかと思うと辛い。 私が一番幸せを感じる瞬間は、やっぱり、こうして『文章』を書いている時なのだ。 高揚感を知ってしまった。 久し振りに、文章を書いてみたのは一年と少し前。 その楽しさに、驚いた。 私を私足らしめるものなんて、なんでもいいや。と思う。 私から生み出される、それらが全てで、他人はそこから私を見てくれたらいいかなと思う。 作品は残る。 そういうことが、きっと私は嬉しい。 デカルトは言った「我思う、故に我あり」。いつもそう、思い出す。 書きたいと思った事を押し込めていた時期。 いつでも書けるや、と思っていた時期。 そんな時期が惜しい。今更に。 沢山やってればなぁと思う。もっと読書も好きなだけしていれば良かったなぁと思う。 沢山の、「こうしていれば良かった」を考えるのは不毛で、無意味な時間だ。重ねた後悔だけ時が戻るわけでもあるまい。 物を書いている時だけ、私の毎日は色を取り戻す。輝く。なんでもしてみたくなる。前向きになる。なんでも、出来るのでは?という気になる。 私以上の何者にもなれないけど、私が、今よりももっといい私に近付いていけるのではないかと、そんな気がする。 また私は、未来の為に、一度筆を置く。 正確には、創作活動と距離を取る。 そこには、もっと違う時間の使い方をしている私がいるはずだった。 だけど実際はまた、何もかもをしたくて、何もかもなんて出来ない、理想ばかりが高くて無気力な自分に逆戻り。 何をしてきたのだろうか、なんて洗い物を見詰めながら思う。 世界の広さも知らない。 友達も少ない。 退勤後の寄り道さえもめんどくさい、私。 代わり映えの無い日々。    一度きりの人生のはずなのに、ともすれば私は、人生をもう一度生きられると思っているのかもしれない。   だからこの味気無いのに忙しない日々に、抗わずに生きていく。淡々と重ねていくだけの日々を許しているのかもしれない。諦めているのかもしれない。  味気無い人生だったな、次は上手くやりたいな、と思いながら、棺桶に入る自分を想像する。  私は出会えたのに。  この、高揚感に。幸福感に。  それなのに、やっぱり、無視できない。  結局私はまたスマホを開く。  こうして、文章を打つ。  なんでもないこの乱文ですら、私を満たすのだ。  書くことは、私が此処に居ると言うこと。 そうして初めて、『ただ唯一』を与えられている気になる。実際、そうだと思う。 そうして 久し振りに、私は再び『私』になった。 やっぱり、文字を書くのは止められない。 生まれてきた意味とか本当はどうだって良くて。 ただ、私のしたいことがあるからそれをする。 そうして、死ぬ時に満足して死にたいと思う。 楽しかったなぁって。 だから、 私の日常に文字を書くことを失くすことは、やっぱり出来ない。   ーおしまいー
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