#1 TAKUBO

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 実際は連絡を受けて三分も経過していないのだが━━立腹する女性客の面前に立ち止まり、笑は深く頭を下げた。地下二階から最上階の八階へと駆け上がってきたにもかかわらず、息一つ切らしていない。 「案内係? そんなもの、頼んでないわよ!」  白髪混じりの巻き髪を揺らしながら、女性客の怒りは上昇しかける。頭を上げた笑は、名前の通りに微笑みつつ伺いを立てた。 「ご贈答品のご購入で、お困り事があるとお伺いいたしました。差し支えございませんでしたら、お手伝いさせてください」 「困り事も何も、詐欺じゃないの。写真にはチャーシューやメンマや煮卵も載ってるのに、箱の中身は麺だけだなんて!」  女性客のクレームの矛先は、贈答用にと購入した『ご当地ラーメンセット』に麺とスープしか入っていないことだった。  サンプルとして飾られた箱を手に取り、笑は隅々まで眺める。写真の端には、小さく『調理例です』とあった。 「確かに……この但し書きは分かりづらいですね。販売元へは、私どもの方から申し伝えておきます。ご指摘、ありがとうございます」  笑の真摯な対応に若干怯んだのか、女性客は自ら終息する姿勢を見せた。 「ま、まぁ……よく言っておいてね」
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