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「最低! 『荒尾』じゃなくて、『チャラ男』に改名したら?」
「それ、『セクハラ~』」
両手人差し指を「ゲッツ!」よろしく笑に突きつけると、響は年配マネキン軍団の輪の中へと消えていった。
「何が『王子』よ。何で、あんなのが同期で一番出世してるのよ……」
響への不満を漏らしつつ空になった食器を返却棚へと並べる笑の傍らに、八階フロア長である正門がピタリと体を寄せてきた。
「今日もありがとう。助かったよ、田窪ちゃん」
さりげなく距離を取りながらも、笑は笑顔で対応する。
「とんでもないです。私の職務ですから」
反対側からは、正門の腹心である小泉が声を発した。
「リピーターではあるけれど、お使い物にも値落ち品しか買われないカスハラ客ですよね。あそこまで親身にならなくても……」
正門から小泉へ、くるりと顔の向きを変えた笑は「お言葉ですけど」と前置きをした上で反論した。
「だからって、蔑ろにしてはいけません。来店数が多いってことは、浪越屋のファンなんです。クレームも単なる嫌がらせではなく、『良くあってほしい』っていう期待の表れなんです。そのようにありがたいお客様を……」
熱弁の途中で、笑の社用携帯が着信コールを響かせる。「行けます、大丈夫です」と短い返事を済ませるや、
「五階の宝飾に呼ばれたので、行ってきます」
と正門&小泉に一礼をし、小走りで食堂を後にした。
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