16人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
第二ボタンは、燃えるごみじゃないから
誰もいなくなった教室で、深呼吸。
すーはー、すーはー、すーすーすー。
黒板には、先生が書いた「卒業おめでとう」の文字。ちょっと右斜めの度合いがきつい独特な字だ。その黒板を前に、クラス全員で写真を撮ったのだろう。教室の後ろに無造作に寄せられた机たち。
いつもお行儀よく授業を受けるために存在していた教室が、今日はすこし特別。そこかしこに、まだかすかな喧騒が残っている。だが、いつしかそれも、寂しさに変わってしまうのだろう。だからその前に、この空気で胸を満たす。
おめでとう。
おめでとう。
おめでとう――。
教室にただよう空気から、その言葉を受け取って、身体にしみこませる。鼻から吸って、気道を通って、肺を満たして、頭の先から足の指にいたるまで、「おめでとう」で自分を形作る。
先輩に、特大級の、「おめでとう」を伝えられるように。
すーすーすー……。
「お前、何やってんの?」
「うわっ!」
振り向けば、先輩がいた。
最初のコメントを投稿しよう!