第二ボタンは、燃えるごみじゃないから

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第二ボタンは、燃えるごみじゃないから

 誰もいなくなった教室で、深呼吸。  すーはー、すーはー、すーすーすー。  黒板には、先生が書いた「卒業おめでとう」の文字。ちょっと右斜めの度合いがきつい独特な字だ。その黒板を前に、クラス全員で写真を撮ったのだろう。教室の後ろに無造作に寄せられた机たち。  いつもお行儀よく授業を受けるために存在していた教室が、今日はすこし特別。そこかしこに、まだかすかな喧騒が残っている。だが、いつしかそれも、寂しさに変わってしまうのだろう。だからその前に、この空気で胸を満たす。  おめでとう。  おめでとう。  おめでとう――。  教室にただよう空気から、その言葉を受け取って、身体にしみこませる。鼻から吸って、気道を通って、肺を満たして、頭の先から足の指にいたるまで、「おめでとう」で自分を形作る。  先輩に、特大級の、「おめでとう」を伝えられるように。  すーすーすー……。 「お前、何やってんの?」 「うわっ!」  振り向けば、先輩がいた。
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