第二ボタンは、燃えるごみじゃないから

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 きょとんとする先輩。  ストップ、止まって。そう思うのに、一度出た言葉は戻らないし、次から次にあふれてくる。しかも、それがあまりにも異常な速度であふれるものだから、喉がつっかえる。 「わ、私……、部長とか無理です。人前で何かするの苦手だし、リーダーとか向いてないし……、絶対無理。先輩が部長じゃなきゃ、部活崩壊しますよ! 絶対! 私にできるわけないじゃないですか、なんで部長やめちゃうんですか!」  目の前が水彩画みたいににじんでいく。  笑顔で送り出したいのに、なんでこんなことしかできないのだろう。こんなのは、先輩の卒業式にふさわしくない。ほら、先輩も困ってる。 「お前ならできるよ。だから部長任せたんだし」 「無理です!」 「大丈夫だって、やればできる子だよお前は。むしろ、やらなくてもできる子だ」 「なんですかそれ!」  無理、無理、むり――。  ぽろぽろ、ぽろぽろ、涙がこぼれて、ひっく、ひっくと喉が泣く。  見苦しい、聞きづらい、最悪だ。 「よしよーし、落ち着けー」  先輩が頭をぽんぽんしてくる。子ども扱い。そっちがその気なら、私だって思いきり手間のかかる子どもになってやろうか。なんてことを考えなくたって、今の私は手間のかかる子ども以外の何者でもないだろう。  冷静に考える自分と、勝手にわめいている自分。身体を支配しているのは、後者だ。 「だってだって、先輩いないと、楽しくないし、さび、寂しいし……! もっと一緒にいて欲しかったのに、なんで、卒業するんですか! 置いてかない、でくださいよ……っ! なんなんですか、もう! 最低!」  先輩は無言になった。手も止まる。ひどくショックを受けた顔だ。 「……最低は、取り消し、ます」  ぽんぽん再開。 「なに? お前は、俺に留年しろって言いたいの? 俺そんな問題児じゃないぞ。むしろ超優秀だ」 「知ってます」 「おー、さすが俺と同じくらい優秀な後輩ちゃんだこと」 「……卒業、しないでください」  ぽんっと私の頭に手が乗る。見上げると、先輩はふわっと微笑んだ。 「やだよ。卒業する。俺はお前のカッコいい先輩でいたいから。なあ、ハサミ持ってる?」 「はい?」 「ハサミ」  先輩の手のひらを向けられる。よこせ、と。  セーラー服のポケットから小さな裁縫道具セットを出して、親指くらいのサイズしかないハサミを乗せてあげる。先輩の手に乗ると、ハサミがさらに小さく見える。つまり、先輩の手が大きい。  先輩は、使いづらそうにハサミを動かす。えっせらおっせら、糸を切り取って。 「あげる」  ぽん、とハサミと一緒に渡されたのは、先輩の制服についていたボタンで。
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