愛獣

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 何処かの深い森、人世から身を隠すようにして日々を生きる獣がいた。 「ウゥゥウウ!(ボス、もうすぐ夏に蓄えてた食糧(エサ)も尽きてしまいますぜ!)」  金色(こんじき)の毛を持った獣の群れ。  その中でも一番大きい体躯の先頭(ボス)に対して、今仲間が抱えている問題を苦言する者がいた。  端から見れば、ただ獣が唸っているようにしか聞こえない、その声は確かな“言葉”と為り、ボスに届く。 「ウゥゥ……(分かってる。もう少し時間をくれ、考えてるから)」 「ウワゥ(このまま森を当てもなく彷徨っても意味がありませんぜ。 最悪、先にくたばった仲間の死体を──)」  目を見開いたボスは、怒気を帯びた唸りを見せた。 「グアウッ!!(黙れっ!それ以上言ってみろ、お前から喰い殺すぞ)」  ボスの激しい感情(いかり)に思わず後退りしてしまう。 「キャウ(す、すいやせん。ですが、本当にこのままだと……)」 「・・・・・・」  逃れられない現実は群れのリーダーが一番理解していた。  人間が開拓の為に自然を壊し、今まで彼等のエサと為っていた兎や鹿等の草食動物の数が激減。  挙げ句の果てには視界に入った獣を片っ端から猟銃で玩ぶ。  仲間の言う通り、このままでは本当に皆が餓えで死んでいくのは時間の問題。
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