愛獣

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 そんな時だった。  ガサガサッ! 「「「ッッ!!」」」  近くの茂みが揺れ、群れに緊張が走る。  いつ戦闘に為ってもおかしくない状況、ボスだけは臨戦態勢を取っていた。 「・・・・・」  数秒後、彼等の前に現れたのは酷く汚れた人間の子供だった。 「アウ(子供(ガキ))」  一匹がそう言った瞬間、一斉に目の前の子供を見る目が変わっていく。 「アァァ……ア(子供(ガキ)……旨そう)」  獲物を狙う眼。 「グハハ(これで暫くは持つぞ)」  涎を垂らし、牙を向く。 「ギリギリ(俺は脚を貰うぜ)」  にじり寄っていく群れの足はボスの一声で止まった。 「ガウッ!(待てッ!)」 「アッ!?(何故ですか、ボス!このひ弱な子供(ガキ)なら今の俺達でも簡単に仕留められる!! 助けを呼ばれる前に、さっさと食料(くっ)ちまった方が──)」  空腹なのはボスも同じであり、彼もまた堪えきれない涎を溢していたのだ。  それでも眼前の子供を喰らおうとしないボスを見て、自然と群れの全員が、その静止に従う。  仲間が落ち着いたのを確認したボスは自分の考えを仲間に伝えた。 「ガガガルゥ(これから人間と対峙する可能性もある。 極力争いは避けて進みたいが、万が一に備えて、“人質”として確保しておいた方が得策だろう。 人間は情に厚いと云われているからな。 ましてや人間の子供。良い交渉材料にも為り得る)」  それは確かに正論であったが、納得出来ない者もいた。 「ガルラァ!(だからって喰わなければ皆が死ぬッ! もう限界なんですよ!数日と持たない!)」  仲間の反発を見越していたようにボスは続けた。 「ガアアアウ(子供の髪と服を森の入り口に置いておけ。 そうすれば必ず人間達は子供が喰われたと勘違いし、大量の兵が動員して、この森を捜索するはずだ。 そうなったら街の警備は手薄になる)」  そこまで説明してやっとボスの考えに賛同する者が現れはじめた。 「アアウ!(そうか、そこを突けば!)」  更に補足するボス。 「ガアア(街へ向かう数は少ない方がいい。目立つし、何より最悪の事態も有り得るからな。 俺一人で行く。お前らは待機だ)」 「ガガガ?(もしボスが戻らなければ?)」  。その先の事をボスに訊く。  ボスは毅然として答えた。 「ガルゥ(その子供(ガキ)を喰え)」  群れの(おさ)としての冷徹で低い唸り。  決して“助けたい”なんて生易しいものがあるわけではなく、仲間の生存を第一として、群れのを見越した上での選択。  ボスはそれが最善であると判断したのだ。
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