37 実の親

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37 実の親

「 起きろ! 」 「 っ……… 」 自分で盛った薬に耐え切れず、車の中で寝たのはいいけど起こされ方が少々乱暴だと思う。 ずっと暗い毛布に顔を包まれていたせいで、明るくなった視界が眩しくて、眉を寄せて辺りを見る前に、腕の痛みに視線を胸元から後ろへと向ける。 「 いっ、たいんだけど…… 」 腕と共に両手は後ろで拘束され、ロープでグルグル巻にされていた。 手首を動かそうにも擦れるような感覚に奥歯を噛み締め、前に立っていた男を睨む。 「 あんまり暴れない方がいいぜ。綺麗な身体に傷が付いちまうからなぁ? 」 目の前にいるのは三人、其々に黒髪だったり茶髪だったりするけど、年齢は二十代から三十代前半ぐらいに見えるほど若い。 春前とは言えど、半袖を着てる左側に立つ茶髪の男の両腕には、びっしりと和柄の刺青が有るのを見て、流石だと褒めてあげたいぐらい。 中央の短髪の黒髪の男も、夜だと分からなかったけど、右の首筋に和柄の獅子の刺青があるし、見た目は凄くスラッとして格好いいのに残念だよ。 口角を上げ、笑った茶髪の男は刺青をした手を伸ばし、顎を掴み自らの方へと引き寄せてきた。 「 いっ……! 」 「 アンタも悲惨だよなぁ?血は繋がってねぇとはいえど…その父親がずっと妻から金を奪っていたとか…。知らねぇよなぁ? 」 「 どう、いうこと……? 」 あの父親と血は繋がってない…? それに、その人がずっとお母さんからお金を騙し取っていた、なんて聞いても分からないから動揺すれば、中央の男は溜息を吐き腰に手を置く。 「 喋り過ぎだ。御前は少し黙ってろ 」 「 いいじゃねぇっすか。どうせ知ったところで、変わんねぇすから 」 「 !! 」 ヘラっと笑った男は掴んでいた顎を乱暴に外した為に、身は動き冷たいコンクリートへと倒れる。 「 まっ、後は任せるっす。俺の担当じゃねぇんで 」 しゃがんでいた男は立ち上がり、中央の男の横へと移動すれば、そのまま右手を振り立ち去った。 右側にいた男は、二人の様子を見た後に私を見下げるように睨んできた。 「 御前の言動なんて関係ねぇが、サツのやり方次第で死ぬ事を覚悟しとけよ 」 蔑むようにはっ、と鼻で笑えば、革靴を鳴らし離れて行く様子を見れば、彼等は一ヶ所の古びた立て付けの悪い扉から出て行く。 死ぬ事への覚悟は出来ているから問題は無い… だから、今は此処が何処なのか知ろうと視線を向けるも、中央の男は近付き目の前にしゃがみこむ。 「 な、なに……? 」   他の彼等とは違い、若さ故のやんちゃ感は無く… 本気(マジ)のヤクザって雰囲気があるぐらい怖い。 格好いいとか思ったのを後悔する位に、この人の瞳に私に対する情も無ければ好意もない。 只、汚い雑巾を見るような目を向けてくる。 「 教えてやろうか。彼奴が言った真実 」 「 え…… 」 もっと何か暴言でも言われるのかと思っていたのに、全く違う事に驚く。 それも、私が疑問になった事への答えを教えてくれるってことに困惑すれば、彼は片手を伸ばし、私の後部に手を当てれば引き寄せてきた。 「 !! 」 一気に近くなる顔の距離感に驚くも、色素の薄い茶色の瞳は、私を見詰めた。 「 俺は、桐ヶ谷(きりがや) 彰人(あきと)。叔父だ 」 「 ………へ? 」 叔父と言った言葉に驚いたけど、 それより゙ 桐ヶ谷 ゙って苗字の方がもっと驚く。 こんな直ぐ近くに、同じ苗字の人が何人も居るのだろうか。 それも、珍しい苗字だと思う人の……。 「 どう、いうこと……? 」 意味が分からなくて困惑すれば、彼は手を離し、スーツの内ポケットに手を突っ込み、中からナイフを取り出した。 向けられたことに怯えるも、そのナイフは後ろへと周り手首のロープに触れ切っていく。 ぱらっと静かな音を立て外れ、両手首の痕に触れながら見れば、ナイフを内ポケットに戻した彼は直接地べたに座り、胡座を組み話をする。 「 御前は、桐ヶ谷財閥の桐ヶ谷(きりがや)(りく)雅楽代(うたしろ) 彩絵(さえ)の娘だ 」 「 桐ヶ谷…淕? 」 雅楽代(うたしろ) 彩絵(さえ)が母親の名前だって事は知ってる為に、女性の名前には違和感ないけど… 父親の名前が、カズさんと同じグループであり、苗字ってことに…ハッとした。 「 一雲…さんの、お兄さん? 」 「 嗚呼、長男だ。俺は三男になる 」 お兄さんの話は聞いていたけど、弟がいることは知らなかった。 でも、カズさんの年齢的に弟がいても可笑しくないし、叔父だけど若い理由も納得出来る。 「 まぁ、御前は父親…淕の事を知らなくても無理はねぇ。なんせ、生まれる前に離婚してるからな 」 「 生まれる前…? 」 「 嗚呼、御前の母…雅楽代は結構いいところのお嬢様育ちで淕と駆け落ちした。二人は貧乏なりに田舎で暮らしていたんだが…、俺達の親父と、雅楽代の当主が喧嘩してな。二人は強制的に引き裂かれ、離婚。その時に腹にいたのが御前ってことだ 」 お母さんが、何処か貧乏人とはかけ離れた位に綺麗で落ち着いた雰囲気を持ち合わせていたのは、いいとこ育ちのお嬢様だったからなんだ。 綺麗に着飾ることを良しとして、女性らしく有り続けていた。 「 でも…如何して…橘って人が…父親に? 」 「 父親の顔を覚えてない御前に、父親と言って差し出せば受け入れるだろ、どんな男だろうとも 」 「 っ……… 」 「 母親は死んで、実の父親の事実を知る奴はいない。教える者もだ。だから御前は利用されたんだ。雅楽代から金を奪う為に…獅子組に 」 私がずっと耐えて、どんなことをされても我慢していたのに… それが、実の父親でもなく、赤の他人であり… お金を取る為だったと聞いて、酷くあの男を恨みそうだった。   グッと胸元に手を置き、握り締めれば彼は続ける。 「 案の定、生活費と言えば雅楽代は子供には罪が無いとかで莫大な金を出していた。只、駆け落ちした娘の子は世間的に塞ぎたかったんだろうなぁ。御前を助ける事はしなかった 」 そりゃ、駆け落ちの原因となった男の子供。 それを良い立場の人達が、世間に出したいとは思わないよね…。 彰人と名乗った叔父は、ポケットから煙草を取り出し、龍が描かれたジッポで火を付け指で挟むように持てば、紫煙を横へと吐き出した。 「 こっちの桐ヶ谷財閥も放置。なんでか分かるか? 」 「 駆け落ちした…息子の、子だから? 」  「 違うな。知らなかったんだ 」 「 知らなかった…? 」 「 嗚呼、淕が死ぬ寸前まで…本人も娘がいることを知らなかった。そして俺達も聞いてはいなかったから、彩絵さんが亡くなった時点で諦めて縁を切っていたからな 」 そりゃ、離婚した後に子供が生まれていたなんて…知らないだろうね。 だから、桐ヶ谷財閥の人達も何も手を貸せないのは無理もないけど……。 「 じゃ、なんで…今になって、二億を? 」 「 そりゃ…橘が、二億を渡す事なく隠して死んだからだ。その事についてだけ獅子組はキレてるだけで…、御前の生まれなんて知ったこっちゃねぇんだよ 」 嗚呼、そっか… 彼は私の生まれを教えてくれて、橘って人が実の親じゃないって理由を丁寧に説明してくれただけで、二億が出てくる訳じゃない…。 「 もう一つ…いい? 」 「 なんだ? 」 減った煙草の火を、コンクリートに押し付けて消した彼に、私は全く関係ないことを問い掛けた。 「 一雲さんと私がもし、子供を作ったら…近親相姦になるよね? 」 …もし、これが全て終わって、 カズさんともっと親しくなれば、そうなるかもしれない…。 だから、今の内に諦めれる確信的な理由が欲しいと思って問えば、彼は口角を上げ意味深に笑った。 その表情は、カズさんによく似てると思う。
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