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真っ赤な夜だ。そのくせ空気がチカチカキラキラしてる。厚い雪雲が空を覆っているせいだ。冷気が僕の体を包む。池の水が震えている。水面を足の爪で弾いてみる。ピシャン、と硬い音がした。多分凍る手前くらいの温度なんだろう。両手で水を掻くように上昇し、やせ細った杉の枝を避けながら「元」鎮守の森を抜けていく。
ふわりふわり。
僕は気の向くままにつま先で地面を岩を、焼け焦げた屋根の上を跳ねていく。
ふわりふわり。
海が見えてきた。あの細長く連なるのはもしかしたら街だろうか。
ふわりふわり。
暁まではまだ時間がある。あそこに向かってみよう。
ここは日本という国だったっけ。
ざざ、ぱしゃん。防波堤にぶつかる波の音だけが響いている。この海辺の街は街というよりは町。漁港を囲んで緩いカーブを描く道ぞいには、崩壊寸前の家や倉庫がぽつりぽつりと物憂げに立っている。その前や脇にはどこからか運ばれてきたらしい木の根やプラスチックのクズ、波板やらが静かにコロニーを形成している。
ふと真っ黒な海を眺めながら歩いてみたくなった。降下してゆっくりと足を蹴り出す。数歩も行かないうちに硬い何かに躓いた。
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