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誰にも話すことのない物語ってものがある。人生歩んでたら誰でもそんな物語を持つものだ。影に潜む理由はさまざま。たまたま語る機会を逃しただけだったり、惨めすぎて誰にも打ち明けられなかったり。そこのきみはどうだい? 誰にも話したことのない物語を持っているかな。
おれは残念ながら持っている。
これは暗い影に追いやられた物語。話すつもりはなかったんだけどね。ちょっと暇だから、いい機会かもしれない。
聞く準備はいいかい、マイ・フレンド。
ところで、おれの名前はヒツジコという。苗字はない。親がいないのでわからないのだ。知り合いからは、ヒーちゃんとか赤目とか呼ばれている。赤目と呼ばれる理由は単純、おれの目が赤いから。
生まれ育ったのは海の近くのシークレット・ガーデン。いわゆるゲットー。シャレたって意味じゃないほうのポップさと、おかしなくらいの軽々しさが混在する街。外街の人間がいうには、治安が恐ろしく悪い無法地帯で犯罪都市だそうだ。なんたってこんなネタがある。シークレット・ガーデンのガイドライン。『駅から徒歩一分の路上で人が頭から血を流して倒れていた。腕時計をした旅行者が襲撃され、目覚めると手首ごとなくなっていた。車で轢いたあとに荷物などを強奪する。中心駅から半径二百メートルは強盗にあう確率が百五十パーセント。一度襲われてからまた襲われる確率が五十パーセントの意味』。
噂って大げさでなんだか笑える。もちろんここまでデンジャラスな街じゃない。よく家出人がやってきたりするくらい。それってけっこう安全だよな。
しかし噂が人を呼び、普通の街では生きられない人間も集まるようになった。そのせいでシークレット・ガーデンの呼び名はこれ。
人間のゴミ箱。
なかなかバッドな表現で否定できない。ひとつ例をあげると、「ジャック・ザ・リッパー」という通称で呼ばれる男がいた。やつは自称有望な医者の卵で、家出少年で、人間を切り裂くのが大好物だった。立派な犯罪者。というか、マッドな方向性に偏った化け物。なんたって初恋の少女すら切り裂いて殺したのだ。ちなみに、そのジャックも、殺された少女も、おれのダチだった。この話が聞きたいんだったら別の機会にしてほしい。今回は他の話をしたいからね。もしかしたら、もう知ってるかもしれないけど。『アリス・ブルー事件』といったら、ちょっと有名になっちまったもんな。
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