1.胎 動

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「そんなバカな…」  橘くんは携帯ニュースを見ながら、呆然とそんな言葉を吐いた。  当然と思っていた価値観、信念、常識が覆された時、それにすがって生きてきた人たちの中には、生き方そのものが分からなくなる者がいるのだろう。  この数十年、この国を支配してきた『龍戌制度』にメスが入れられたことで、橘くんは見るからに動揺していた。  龍人としての誇り、価値を最重視してきた彼にとって、これほど衝撃的なことはなかったのだろう。  スマホを持つ手が、わなわな震えていた。やり場のない怒り、憤りがひしひしと伝わってくる。  それ一筋に、今まで頑張って来たのだ。無理もない。私は彼の隣で、静かにその様子を窺っていた。  今、彼のそばを離れるのは、とても危険な気がした。
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