1.胎 動

4/4
前へ
/119ページ
次へ
 彼はひと息つくと、無言で門をくぐった。私も仕方なく後に続いた。  彼の背中は怒っていた。何も言わなくても、それが分かった。肩をいからせ、前傾姿勢に大股で歩くその姿は、戦場に向かう赴きだった。  私は怖かった。  これから何が起こるのか、想像ができなかった。  石嶺さんと橘くん。  高校で成績の1・2位を争った2人。  激しい論争が予想される。  できれば会わせたくなかった。2人は今、正反対の位置にいるのだ。分かりあえるはずがない。そんなことは重々承知していた。  でも、私は彼を止められなかった。止められるばずがなかった。それほど、彼の猛然とした姿勢に威圧された。  ここまで来たのだ。  覚悟を決めるしかない。  何が起こっても、見届けよう。  彼が変な行動に出たら、それを止めよう。  それが私の役目だ。  そう自分に言い聞かせて、私たちは大学の事務室へと進んだ。
/119ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加