4.橘仁の話

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4.橘仁の話

 塾を出ると、父の姿が見えた。  父も僕に気づくと、手を上げて応えた。 「毎日、ご苦労さん」  父はそう言うと、僕を後部座席に乗せ、車を出した。  父の運転する車に揺られ、夜の町を眺めた。綺麗なネオンが視界に入り込んで来る。少しだけ、ホッとする。 「この前のテストも良かったみたいだな。母さんが喜んでた」  父は前を見ながら言った。 「おかげさまで」  僕はそれだけ言うと、再び視界を外に向けた。  県庁で上役を務める父が迎えに来ることは滅多にない。今日はたまたま帰りが早かったのだろう。かと言って、特別な話をすることもないが。  前回の中間テスト。僕は学年1位を取った。でもそれが何だというのだ。僕にとっては当然。これだけ勉強しているのだから。  最上級の龍人として、当然の結果だ。
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