4.橘仁の話

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 浴槽に浸かりながら、ふうと一息ついた。  僕の両親は龍人。よって僕は、この国では最上級の龍人と呼ばれている。  父は県庁に務める、いわゆるエリートだが、母は働いていない。働かなくとも十分な収入がある。  父はあまり僕の成績に口は出さないが、母はけっこう厳しい。常に上位5位以内にいなければ、最上級の龍人とは言えない。そう言われ続けて、育てられた。  小学生の頃から塾に通い、加えて水泳に英会話。塾の無い日は専任の家庭教師が勉強を見てくれる。  この上ない環境だが、いろいろとあった日は、息が詰まるときもある。そう、今日みたいに。  新宮さんが日直だったので、まだ残っているかもしれないと思い、僕は教室へと戻った。  彼女と少しだけ話したかった。あまり話したことはないが、彼女と話すと緊張した心がほぐれた。彼女の笑顔が、ガチガチに固まった僕の心を軽くしてくれていた。
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