5.僕と新宮理沙の話

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 昼休み、私は屋上から遠くの街並みを眺めながら、今日のことを考えていた。  勇気を出して、声を掛けた。電車の中で、いつも見かける彼に。少し話をしたかっただけ。でも、全く相手にされなかった。 「僕は龍人が嫌いです」  彼ははっきりとそう言った。私が龍人じゃなかったら、結果は変わっていたのかもしれない。でも仕方ない。私は龍人だから。龍人に生まれてしまったから。  龍人である父と、戌神である母から、私は生まれた。最上級ではないにしても、上位の龍人に当たる。  人に優しく、弱き者を助け、誇りを忘れず生きる。それが私たち龍人の役割だと教えられて育った。それが龍人としてのあるべき姿と、幼少の頃から信じて疑わなかった。  今でもそう。多くの人を助けたい。せっかく龍人として生まれたのだから、そのチャンスをいい方向に活かしたい。  そうは思うけど…なかなかうまくいかない。そして今日の出来事。正直、へこむ。全てが嫌になる。
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