4.文化祭

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 ステージでは、チアリーディング部がはつらつとしたパフォーマンスを披露している。一糸乱れぬその動きには、日頃の鍛練の成果が十分に見て取れた。 「柳田くん」  そんなパフォーマンスを見るでもなく、石嶺さんは、僕だけに聞こえる声で言った。  周りに人はいたが、場内には大音量で音楽が鳴り響いており、僕らの会話は他の人の耳には入らない環境だった。 「今日、何が起こっても、後のことは全て私に任せて」  石嶺さんは、僕の耳元でそう言った。 「君は小池さんに言われた通りのことをすればいい。その後、何を聞かれても、答えなくていいから」  この人は、今日何が起きるのかを知ってる。僕はそう感じた。  石嶺さんを見ると、彼女は笑っていた。 「君にそう言うように、小池くんから言われたの。今日彼が何をするか、詳しくは知らないけど、後の処理は私がするようにって。だから君は、自分のことだけ考えて」  石嶺さんは、それだけ言い残すと、席を立ち、その場を去っていった。  石嶺さんも知らない?  席にポツリと残された僕は、会場を後にする石嶺さんを目で追いながら、背もたれにもたれた。  ステージでは、チアリーディング部の(ほとばし)る笑顔が輝いていた。  
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