2.参 戦

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 午後6時。石嶺さんに声を掛けられ、僕らは車を降りた。そのまま町の中心部に向かって、足早に進んだ。  両手をポケットに突っ込んだまま歩く石嶺さんの後を、僕は付いていった。石嶺さんは後ろの僕を振り返ることなく、黙々と進んだ。 「よう、ひかり」  男性が声を掛けてきた。石嶺さんは右手を上げて合図を送ると、立ち止まることなく進んだ。目的地まで一気に行くつもりらしい。  目的地が近づくにつれ、声を掛けられる頻度が増した。各々の集団が、ルートは違えど、一気に大通りへと集まっているようだ。  だから、メイン通りに着く頃には、大勢の人間が、自然に行進を作っていた。  石嶺さんは有名だった。来る人が次々に挨拶に来る。その都度、石嶺さんは笑顔で対応していたが、長々と話すことはなかった。背中から発する厳しいオーラは変わらなかった。  僕らはデモの流れに乗った。いくつもの川が集まって、大河を形成するように、誰とも待ち合わせることなく、この行進は始められた。
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