2.参 戦

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 デモ行進は警察との衝突はなかったものの、かなりの大人数となった。歩道に入りきれない賛同者は車道へとはみ出し、時折クラクションを鳴らされながらも、行進を続けた。  庁舎の前を通りすぎる時は、皆、龍戌制度に対する異議を大声で叫んだ。千人近い参加者から放たれるシュプレヒコールは、途切れることなく続き、町中に響き渡っていた。  約1時間半のデモ行進は、どこにも集合することなく終わり、そのままみんな散り散りと帰って行った。 「1ヵ所に集ると、そこで補導されたりするから、面倒じゃん」  石嶺さんは、そう教えてくれた。  僕らはデモコースを1周すると、そのまま集団から離れて、埠頭に停めてある車へと向かった。 「石嶺さん、今日はありがとうございました」  行きと同じく、僕の前を颯爽と歩く石嶺さんの背中に向かって、僕は礼を言った。 「いいよ、別に。君が元気になってくれれば」  石嶺さんは、淡々とそう言った。  僕らは15分ほどで車に戻り、石嶺さんの運転で家へと戻った。今日のお礼として、石嶺さんにご飯をご馳走しようとしたが、「いや、自分、間に合ってるんで」と、丁重にお断りされた。  石嶺さんは、見事に淡泊だ。  それでいて、親切だ。
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