2.新宮理沙の話

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2.新宮理沙の話

 その人は、いつも同じ場所にいた。  電車の最後尾、扉のすぐ隣に。  席が空いていれば座り、開いていなければ立ち、扉の向こうを眺めていた。  お年寄りが乗って来て席が開いてなければ、さりげなく譲った。  その姿を見てきた。  同じ車両の端から。  その日も彼は同じ場所に立っていた。少し違ったのは、左の頬が腫れていたこと。つい今しがた叩かれたように、真っ赤に腫れていた。  彼は左の頬を押さえながら、いつものように窓の外を見ていた。  どこか悲しげな瞳で。  どうしよう。声をかけたい。でも、話したこともないのに、いきなり声をかけたら変だよね。  彼は龍人ではない。学校の制服が違う。もしかすると、龍人に絡まれたのかもしれない。  だったら尚更、声はかけにくい。  私は龍人だから。
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