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俺は抱きしめていた彼女と空を見上げていた。俺は真っ白な封筒に入った便せんごと指で思い切り裂いた。
こんな手紙が今さら何になるというのか。
「大丈夫?」
背中に回していた手で手紙を破ったのが判ったのだろう。彼女が心配そうな表情になる。俺はもちろん、と頷いて彼女を抱きしめ直した。
曇天からは雪が舞い降りている。きんと冷えた空気が肌に刺さるように痛い。周囲にはたくさんのカップルがいて、それぞれがクリスマスソングの中で楽しい時間を過ごしている。
俺は正直、不快だった。もう遅い、と心の中で呟く。彼女との大切な時間を邪魔しないで欲しい。そのことだけを考えていた。
この時のために俺は金を貯め、かなり頑張って彼女への贈り物を買った。彼女は俺の送った指輪をとても喜んでくれた。二人でディナーを共にし、さあ、これからという時に彼女が手紙を差し出したのだ。
最初は何事かと思った。もうクリスマスプレゼントは交換していた。彼女がくれたのは洒落た手袋だった。この時期にぴったりで、俺はとても嬉しく思った。
なのに手紙? しかもその手紙は愛想も何もない、郵便番号を記入する枠がある白い封筒に入っていた。中から出てきたのも白い便せんだった。内容はあっさりしていた。
彼女はここに来る前に俺の部屋に行き、郵便受けに挟まっていた手紙に気付いて持って来てくれたという。
手紙を見て、今さらか! と、毒づこうと思ったが、俺は我慢した。彼女が不安そうにしていたから抱きしめたものの、内心ムカついていた。
細かく裂いた手紙が風に乗って飛んでいく。彼女がそれを見送ってぽつりと呟いた。
「でも家賃は払った方がいいと思うの」
しまった。彼女に先に読まれていたのか。そういえば封緘はされていなかった。彼女も心配になったのだろう。
「私、そういうのにルーズな人とはちょっと……」
「待ってくれ! 俺は君にとっておきのプレゼントをしようと」
「それとこれは別」
冷たく言い放った彼女が俺から離れて踵を返す。俺は呆然として彼女の背を見送った。
……せめて指輪、返してくんないかな……。
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