Do NOT call the police!!

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「警察を呼べ!」  深夜のコンビニに轟く怒声に、買い物客三人は硬直した。  レジを見ると、不穏な光景が目に飛び込んだ。  中年男が若い男性店員を背後から拘束し、ナイフを突きつけている。  三人は一瞬、声の主は人質にとられた店員だと思った。  だが言葉を続けたのは、ナイフを持った男の方だった。 「聞こえなかったか! 警察を呼べ!」  人質の店員、そして客三人は唖然とした。  警察を呼べ?  そう叫んだ男は見るからにコンビニ強盗だ。 「もたもたするな! 110番通報だ、わかるだろ!」  ナイフを突きつけられたコンビニ店員、土佐正規は後方をちらりと見た。  タバコカウンターの横に電話の子機がある。  店員として、即時に通報した方がいいのは明らかだ。  おまけに強盗の許しまで出ている。  でも、通報するわけにはいかない。  土佐は手を伸ばすのをやめた。  杖をついた白スーツの男性客、鬼頭力也はスラックスに手を伸ばした。  ポケットの上からスマホに触れる。  たしか駅前に交番があったはずだ。  通報を受ければ十分とかからず警官がかけつけるだろう。  だが、通報するわけにはいかない。  鬼頭はスラックスから手を離した。  白髪まじりの女性客、斉藤凛子はバッグに手を入れ、スマホを掴んだ。  強盗自ら通報を望むなんて、どういうつもり?  警察を巻き込んだ愉快犯? それとも思想犯?  けれど、通報するわけにはいかない。  斉藤はバッグから手を出した。  革ジャケットの男性客、下野和樹は内ポケットに手を入れた。  コンビニ強盗が警察を呼べだなんて、何の冗談だ。  気が動転して思ったことの逆を口走ったか?  それとも俺たちの人質としての忠誠心を試している?  いずれにせよ、通報するわけにはいかない。  下野は懐から手を下ろした。
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