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「ひとついいかい」
杖を突き、一歩進み出たのは鬼頭だ。
汚れ一つない白スーツに身を包み、手首には金の時計が光る。
厳めしいサングラスに姿を捉えられ、後藤はひるんだ。
「な、なんだてめえ……」
「なぜあんたは警察にこだわる。強盗ならさっさと金を奪って逃げりゃいい」
サングラスの奥で、鬼頭の眼は焦燥感に揺らいでいた。
警察を呼ばれちゃまずい。
俺の顔は割れてるし、もし車にあるアレが見つかったら……。
この左脚じゃ走って逃げることもできやしない。
最悪の事態を免れるため、まずはこの男の目的を知る必要がある。
後藤は押し黙ったが、不意に嗚咽を漏らした。
「娘が……誘拐されたんだ」
「その店員に?」
棘のある斉藤の声に、土佐は首を横に振って見せた。
後藤もかぶりを振った。
「こいつは関係ない。襲う店や人質は誰だってよかった」
後藤は鼻をすすり、続けた。
「全部、警察が悪いんだ。こっちは娘が誘拐されたってのに、家を出ただけだろうと言って取り合わない」
「家出じゃなく誘拐だって確証は?」
「犯人はわかってる。別れた妻だ。あいつは俺から何もかも奪って、娘まで」
「娘さんはいくつなの?」
斉藤が優しい声音で訊ねる。
後藤は濡れた目頭を拭い、答えた。
「十四。ほんの子供だ」
下野は再び眉をひそめた。
十四歳なら自分の意思でついていく親を選べる歳だろ。
だが横槍を入れるのは得策じゃないと、口をつぐむ。
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