1人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
鬼頭は懐から電子タバコを出し、蒸気をふかした。
「それで、どうしてコンビニ強盗なんか」
「世間の注目を集めて、警察の怠慢を主張してやる。そうすればヤツら、重い腰を上げるに違いない」
斉藤は少し考え、口を開いた。
「世間の注目は集まるけど、得策だとは言えない」
「なんだと」
「娘さんが見つかっても、あなたには強盗の前科がつく。養育の資格が認められるかしら」
「じゃあ、どうすれば」
「私なら探せるかもしれない」
「あんた……何者だ」
何者かって?
斉藤は心の中でほくそ笑んだ。
あなたたちにはただのオバサンにしか見えてないんでしょうね。
けれど私にだって背景がある。
家庭だけじゃない、一人の女としての背景が。そして使命が。
その使命のため、いまは警察に頼るわけにはいかない。
「女性の生活支援ボランティアをしているの。単身女性や母子家庭、家出少女のネットワークもあるから、女性の行動は把握しやすい。有力な情報を得られるかも」
斉藤はスマホを出し、グループチャットを開く。
「娘さんの名前と特徴は?」
「後藤マナ。特徴は……スマホに写真がある」
後藤はナイフを持った手でスマホを出した。
土佐を拘束した手にスマホを持ち替え、ナイフを握ったまま操作する。
刃先が顔に触れそうになり、土佐は小さく悲鳴を上げた。
「ああ、すまない」
「持ってましょうか」
「頼む」
後藤は土佐にナイフを渡し、画面をスクロールする。
土佐は手元のナイフを見つめた。
このオッサン、あっさり凶器を手離したぞ。
これって形勢逆転なんじゃ……。
土佐はナイフの刃先を上に向け、ゆっくり持ち上げた。
が、それはひょいと取り上げられる。
「顔のよく写ってる写真だ」
後藤は取り返したナイフを再び土佐に向け、スマホを斉藤に見せた。
土佐は苦虫を噛み潰したような気分になる。
斉藤は表示された画像を自身のスマホで撮影した。
「こっちにも写真をくれ。俺は水商売を経営していてな、夜の街には表にできない情報が集まりやすい」
そう言いながら、鬼頭がスマホを出す。
後藤のスマホ画面をいい加減に撮影し、ショートメールを立ち上げた。
『至急、車の回収に来い。三丁目のコンビニだ。』と打ち込む。
電子タバコを咥えたまま、ほくそ笑んだ。
自然な流れで助けを呼べそうだ。
宛先をタップし、連絡先の履歴が複数表示される。
さて、問題はこれを誰に送るか。
行き場の失った親指が画面上をうろつく。
そもそも側近を連れていれば、こんな面倒に巻き込まれることはなかった。
だが組には裏切り者がいる。
そのせいで大事なシノギを担当する銀二を失い、取引先との信用回復のため俺がわざわざ単身で出向く羽目になった。
仕方ない。新入りの二人に来させるか。
少々頼りないが、銀二の事件の後に入ってきたヤツらだ。
裏切り者の可能性は極めて低い。
「俺も、情報通の先輩にあたってみます」
斉藤と鬼頭に便乗し、下野もスマホを出した。
後藤がスマホ画面を向けると、レジには近づかず手を伸ばして写真を撮る。
「それで撮れてるのか」
「ズームしたんで、ばっちり」
実際にはまともに撮れてなどいないが、構わなかった。
アニキに連絡するならこのタイミングしかない。
下野はチャット画面を開き、『邪魔が入りました。時間がかかりそうです。』と送信する。
最初のコメントを投稿しよう!