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「あの、ご提案があります」
斉藤は後藤を向き、さっと手を挙げた。
「私が代わりに人質になります」
土佐はぱっと顔を上げ、後藤は眉を寄せた。
「何のつもりだ」
「そんなに若い子を人質にしておくなんて可哀想。あなたも、力の弱いおばさんの方が人質として扱いやすいでしょう?」
一同が言葉を失う中、鬼頭は強く確信した。
やはりそうだ。この女、捜査官に違いない。
強盗犯を恐れもせず人質を名乗り出るなんて、一般人のすることじゃない。
後藤は「まあ、あんたがいいなら」と口ごもる。
「その代わり、一つ条件が」
斉藤は毅然と続けた。
「他の客を先に解放してください。そちらの男性は足を悪くされてますし、こっちの彼も、ずっと怯えていて気の毒だもの」
彼女の言葉に下野は動揺した。
怯えている? 俺のことを言ったのか。
俺は覚悟を持ってここにいる。怯えてなんかいない。
鬼頭の動揺は比べ物にならない。
俺を先に解放? この女、何を言っている。
ターゲットをみすみす逃すつもりか?
いや、まさか……。
コンビニの外へ目をやる。
深夜のコンビニ前に人影はなく、自分のベンツとベージュの軽自動車、あとは自転車しか停まっていない。
死角に仲間が潜んでいるのか?
俺が店を出て車の扉を開けた瞬間、がさ入れを……?
一方の斉藤は冷静にシミュレーションしていた。
鞄の中に注射は四本。
一本打てば身体の自由が効かなくなり、二本打てば後遺症が残る。
三本目は致死量。
もう一本は予備のつもりだった。
こうなった以上、予備の注射を使うしかない。
男性客二人には先に店を出てもらう。
二人は店を出たらさすがに通報するだろう。
警察が駆け付けるまでにすべてを終わらせる。
まず、スマホを鞄に戻すと同時に注射器を取り、袖に隠す。
人質を代わるためアイツと強盗犯に近づき、二人同時に注射を打つ。
二人が倒れたところで、アイツにはもう二本追加。
いつもは尋問して、反省の程度から注射の追加本数を決めてるけど、緊急事態だから手順が狂うのは仕方がない。
ヤツの死を確認後、ブツを回収して逃走。
一刻の猶予もない。うまくいくだろうか。
いや、やるしかない。
こんなことがあってはヤツも警戒して身を潜めるかも。
今日を逃せばブツの回収ができなくなる。
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