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電話を切った斉藤はわなわな震えていた。
後藤は期待を込めた目で「娘の居場所は?」と身を乗り出す。
「あんた……娘は別れた妻に誘拐されたって言ったね」
「ああ、そうだ。あのアバズレが」
「どうして妻と別れたか聞かせてもらおうか」
「くだらない痴情のもつれだ」
「違う。そんな理由じゃない」
様相の一変した彼女に違和感を覚え、後藤は顔をしかめた。
斉藤は後藤をきっと睨み上げる。
「あんたは長年に渡って妻に暴力をふるっていた、DV夫だった」
店内が静まり返った。
「妻はなんとか離婚を成立させたけど、あんたはしつこく付き纏ったそうね。彼女はいま、娘さんを連れてあんたに見つからないよう身を隠してる。それを誘拐だなんて……!」
斉藤は早口でまくし立てる。
後藤は脅迫するように怒鳴った。
「あいつらはどこだ!」
「教えるわけないでしょうがァ!」
斉藤は四本の注射器を取り出し、鞄を投げ捨てた。
土佐がぎょっとし、後藤も後ずさりする。
「あんたには一本しか使わない予定だったけど、そっちの盗撮野郎と平等に二本ずつ打ってあげる。これからは使い物にならない下半身をぶら下げて生きてくことね」
鬼頭は注射器を見て、自分の予想が的外れだったことに気づいた。
あの女、捜査官じゃないのか。
だがあの注射器……思い当たる節がある。
連日ニュースで流れているし、組と通じている警官からも噂を聞いた。
女を加害した男を私的制裁している連続殺人鬼だ。
ターゲットに違法薬物を注射し、いたぶりながら殺していく。
一命をとりとめた者も、後遺症が残って半身不随になる。
そして何より、部下の銀二もこいつの被害者だ。
鬼頭は電子タバコを吐き捨て、右足で踏みにじった。
組の誰かがこの女に情報を売り渡し、銀二を襲わせた。
この女のせいで銀二を失い、俺が現場に出向く羽目になった。
取引した薬物を持ち帰る危険な役回りを、この俺が……。
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