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赤髪はダニエルだけなので、当然ながらもダニエルに視線が集まる。ダニエルのことを見ていないのは桐塚だけだ。ダニエルは意外とあがり症なので、こういう場面には弱い。あのダニエルが尊敬する人ならば特に緊張するだろう。
「お、俺は、ダニエル・ジョーンズだ。そ、その…えっと…あの…」
ヤマトはダニエルを真っ直ぐに見つめる。
「や、ヤマト様のことは、実は前から知っていました!」
ダニエルなりの勇気を振り絞って、声を大きくして勢い良く話しかける。
しかし言った瞬間に、机がガタンと大きな音を立てた。いきなり誰が机を叩いたため、場の雰囲気が凍りつく。俺は真剣になってから、ゆっくりと確認する。ヤマトの側にいた桐塚は手を机の上におき、軽く前のめりになりながらダニエルを睨んでいた。その目を見て思わず、ひっ、と心の中で声が出た。ギロリと見開く真っ暗の目がダニエルを見ていた。その目を動かすことも、瞬きをすることも、体を動かすこともないまま。
「その話、できるだけ詳しくお願いします。」
桐塚はこれ以上ないほどにダニエルを警戒しており、氷のように鋭く冷たい視線でダニエルを見つめた。パニック状態になりかけなのか、ダニエルは追い詰められた小動物のように体を強ばらせ、口と瞳を小刻みに動かした。今のダニエルの言葉の何がいけなかったのだろうか。
数秒間沈黙が続き、ダニエルの目尻から一滴の涙が漏れる。それからヤマトが沈黙を破った。この状況を打破できるのはヤマトしかいないからだ。
「落ち着け、桐塚。…しかしまぁ、俺を知っているとはな。俺を知っているということは、どこからか情報を貰ったということだろう。それは困るし、俺としても情報源を突き止めたい。だが、今は『そういう場』ではないだろう。なぁ、桐塚?」
ダニエルが怯えて少し泣いているのにも関わらず、ヤマトは余裕そうにダニエルを見つめる。桐塚はやはりヤマトの意見を一番重要視しているのか、そうですね、と軽く返事をすると簡単に身を引き、先ほどまでの何もかもに興味がない態度へと戻った。それでもダニエルはプルプルと震えている。元々、ダニエルはメンタルが弱いのである。
ずっとダニエルが黙ったままだったので、流石にヤマトも気を遣ったのか、組んでいた足と腕を解き両手を両膝に乗せた。すると姿勢が良く見えるようになり、紳士的な印象を齎した。
「恐らくだが、俺と君は同級生だろう。ハルやレイと同じように、俺をヤマトと呼ぶがいい。決して桐塚の真似をする必要はないぞ。」
ヤマトなりの配慮なのか、偉そうな口調とは似つかわしくない優しい言葉をかけた。瞳は穏やかで、俺の想像とはかけ離れている。もしかしたら、ヤマトっていう奴はちゃんとした人間味のある人なんじゃないのか。いや、確かにヤマトだって俺と同じ人間だ。だけど違う世界にいるはずの人だったから、心のどこかではヤマトを人間扱いしていなかったのかもしれない。でも今目の前で、優しい言葉をかけているヤマトを見て、ヤマトも同じ人間なんだと思って感動したのである。
「あ、そ、そっすか…」
また泣き出しそうになったダニエルに、レイがいきなりダニエルの髪の毛を触った。と思ったら、突然ダニエルの髪の毛をわしゃわしゃと両手で撫で始めた。
「うわっ!」
ダニエルは変な声をあげながらも、レイの手を受け入れる。レイなりの気配りなのだろうか。がさつながらも、ダニエルを慰めようとするレイの暖かい気持ちが現れていた。そんな様子を見ていると、人間誰しも他の人へ思いやりができるのだ、と感じさせられた。仲間であるか仲間でないかなんて関係ない。悲しんでいる人がいれば手を貸す。それが人間なんだ。それは俺も、ヤマトも、レイも、きっとダニエル自身も、皆変わらない。
そう、たった一人を除いては!
「桐塚~、お前が謝れよ~。」
俺はチラリと桐塚の顔を覗き込んだ。桐塚は俺のこともダニエルのことも見ることはなく、どこか遠いところを眺めている。いや、桐塚の目線の先はただの木造の壁にすぎない。もしかして、桐塚は人間ではないのか? ダメだダメだ、そういう思考がセル人差別へと繋がるんだ。この疑惑は心の内にしまっておこう。
「お前…」
桐塚をぼーっと眺めていると、ヤマトから声がかかった。ふと見ると、ヤマトは呆れた顔で俺を見ていた。
「…申し訳ない。こちらの事情もあり仕方のないことだったのだ。悪いが、桐塚のことはあまり責めないでくれるか。」
ヤマトに冷ややかに睨まれる。桐塚と比べると全く怖くないな、とか考えながら、俺は適当に頷いた。…あれ、もしかして、今ヤマトは他人を『お前』と呼んだのか? なんだ、思ったより紳士じゃないじゃん。
ヤマトは俺だけ得意でないのか、俺を見る時のみ冷ややかな視線になる。何だ? 俺、もしかして何かしたのだろうか。…まずい。心当たりしかない!
ヤマトの目元を見ながら、イケメンって罪だ、と思った。
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