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第三話 神隠し
「まぁ、ひとまずこの会合は終わるとしよう。少し休憩でもしようか?」
ヤマトは提案する。休憩って…そんな余裕あるのだろうか。俺達は第一、ヒロとユウとの班が散り散りになったからヤマトに会いに行ったのであって、ここでのんびりしている暇はないんじゃないのか。集合時間に遅れるのも嫌だしなぁ。そもそも、俺達がこの山にいるのはオリエンテーリングがあったからで…。
…あ、そうだ! 学校があるんだ! じゃあ待てよ、帰らないと学校の先生に怒られるじゃないか!
今更ながら俺の判断力の鈍さに困惑する。今すぐにでも帰らないと、集合の時間に大幅に遅れてしまうのではないか。
「あっでもさ! 俺ら、そろそろ帰らないといけない! なぁなぁレイ、地図見せろよ。」
俺は慌ててレイに地図を求める。レイは俺の顔を見て戸惑いつつも、答えてくれる。
「俺、地図なんて持ってねぇぞ…?」
「え? ダニエルは?」
「俺も持ってない。いや、地図はヒロ、コンパスはユウとレイ、それで救急セットは俺とハルって、決めただろ?」
その言葉を聞いて驚く。俺は自分のリュックを探した。あれ、俺のリュックがない! レイとダニエルのリュックもない様子である。
「ハル、荷物はこれだ。」
ふと視界に俺のリュックが映る。見上げると、わざわざヤマトが俺のリュックを持ってきてくれているのが窺えた。
俺は軽く会釈しながら受け取ると、急いでリュックの中身を確認する。…あぁ、絆創膏やシップなどが入った箱しかない!
「本当だ…帰られねぇじゃん。」
事の大事さに気づいた俺は、思考を放棄したくなるほどの絶望感に包まれる。俺ら、もしかしてこのまま遭難してしまうのか?
などと考えていると、席に戻ったヤマトがふっと鼻で笑った。
「何だよー、笑い事じゃないだろ!」
俺が声を荒げると、ヤマトは言った。
「あぁ、悪い。だが、地図があったところで状況は変わらないんじゃないか?」
「どういう事だ?」
レイが尋ねる。ヤマトは余裕そうに、まるで何か当てがあるように答えた。
「俺達はただの迷子じゃない。今日中にそれぞれの元の場所へ帰らなければ、数ヶ月はこの山に取り残されることになるだろう。」
理解もできないことをヤマトは当然のことのように言う。俺達三人はそれを唖然と聞いているだけで、ヤマトが何を伝えたかったのかは分からない。ヤマトは再び足を組んで、俺らを静かに見つめた。
「何だよそれ…俺らは悪人に命でも狙われてんのかよ。」
レイはヤマトを疑っているようだ。ヤマトはその言葉を聞いて、ゆっくり首を横に振った。
「これはサバイバルゲームでも、ただの異常気象でもない。ヒントを言おうか。今は2月だというのに、妙に暑くなかったか?」
よくわからないが、確かにオリエンテーリングをしている時は本当に暑かった。でもそれは歩いていたから暑かったのであって、関係ないことなんじゃないのか。
「では、はっきり言おうか。膨大な力を持った存在が、俺達をこの山に閉じ込めたのさ。」
「つまり?」
「神隠し、って知っているだろう?」
その言葉を聞いて悪寒が走った。レイはそれが信じられないのか質問を投げかける。
「神隠し…って、俺はよくわかんねぇけど、暑いから神隠しになる理論はおかしいんじゃないのか? 第一、俺は一神教なんでね。そういう類は信じないのさ。」
「郷に入っては郷に従えと言うだろう。そこに宗教の違いは関係ない。個人がソレを神と言えば、ソレは神と成る。その神は誰にも否定できないもので、不確かだが事実だ。そんな歪な神が神にとっての思い出の場所へ、たまたま巡り合わせた俺達を誘ったのさ。」
「…?」
ついに俺達のエースのレイでさえ理解できなくなり、レイは黙り込む。ヤマトは顎に手を当てて次に言う言葉を探している。レイでわからないことは、俺にはわからない。ダニエルに至ってはさっきからずっと黙っている。
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