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「よくわかんねぇけど…無事に帰れるんだよな、俺らは!?」
しばらく沈黙が続いた後、ついに吹っ切れたダニエルが叫んだ。それでもなお落ち着いているヤマトはダニエルの顔を真っ直ぐ見つめながら、あぁ、と言って微笑む。
「桐塚はこの場所から逃れることができる道を知っている。今からでも遅くはない。桐塚に案内してもらうといい。ハル、レイ、君達も判断するなら今の内にしろ。」
なんだ、帰ることはできるのか、と思って落ち着く。俺もダニエルに続いて帰ろうかと思い、挙手しようとした。
…いや、待て。ヤマトと桐塚はどうするのだろう。ヤマトと桐塚は何というか、今すぐ逃げようとする気力が感じられない。それどころか、ここにずっと残るという意志すら感じられる。もしかして、何か事情があるのだろうか。
「ヤマトは帰られないのかよ?」
俺はヤマトに尋ねた。ヤマトは一瞬驚いた表情を見せつつ、すぐに余裕そうな顔に戻って、小さく頷いた。
「俺は戻らない。」
「ど、どうして?」
ダニエルが理由を聞く。
「俺達が逃げれば、確かに神隠しに合うことはない。だが、この地の神はこれからも人々を永遠へと招くことだろう。だから、俺と桐塚だけでも残って、その神を封印するのさ。そうすればこれから先、誰もこの地で神隠しに合うことはなくなる。俺達は数ヶ月という時間を失うことになるが、人の命の重さを考えれば安いものだろう?」
ヤマトは説明した。俺はそれを丁寧に聞いてから、判断を下した。
「じゃあ、俺も残る!」
俺に視線が集まる。
「俺も残って、ヤマトの手助けをする! 俺は役に立たないかもしれないけど、二人より三人の方が心強いだろ?」
俺はにっと笑った。
「んじゃ、俺も。ヤマトと桐塚君を残しては行けないんでね。俺はこう見えて、一期一会を大切にしたい人間なのさ。」
またよくわからないことを言い出したレイだが、とにかくレイも残るという意志を示した。
「な、なんだよ、それ…俺も、残らないといけないみたいな風潮じゃんか…」
ダニエルは友人だった俺とレイが自分と考えが違うということに悲しくなり、目に涙を溜め込む。ダニエルは意外と泣き虫なのか、とも思ったが、泣きたくなるのは無理もないだろうと考えを改めた。ダニエルとは中学生からの付き合いで、中学生の時は同じ学校ながらもほぼ他人であり、仲良くなったのは高校生の時からである。それでも、ダニエルの気持ちというのは何となくわかるのである。
「いや、君は早く帰った方がいい。」
ヤマトはきっぱり告げた。
「気持ちが頑なでないと、ここでの生活には身が持たないぞ。桐塚、ダニエルの気が変わらないうちに送ってやれ。」
「御意。」
桐塚は机の下からダニエルのリュックを取り出してダニエルに与えた。あ、そこにリュックが置いてあったんだ。と感心しつつも、ちゃんとダニエルを見送らないとと思ってダニエルへ視線を移した。ダニエルはリュックを背負いつつも、俺やレイの方をちらちらと見ている。
「早く行けよ。もし俺らが数年間も戻らなかったら、捜索願いでも出してくれ。な、それで良いだろ? 無理して残る必要はねぇぞ。」
レイは荒々しくも優しくダニエルを慰める。それがレイとダニエルの友情であることは、二人を一番近くで見てきた俺ならわかる。
ダニエルはレイの言葉を聞いて決心したのか、ごめん、とだけ言うとスタスタと部屋から出て行ってしまった。桐塚は場に似合わないような落ち着いた様子で、ダニエルをゆっくり追うように部屋から出て行った。
ダニエルはお化けとかを人一倍嫌う、意外と子供っぽい奴なので、帰らせるのが一番良かったんだなと今になって気づいた。少ししんみりとした空気の中、俺とレイ、そしてヤマトの三人が取り残された。
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