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「あ、俺も帰った方が良かったかも。」
俺はあることを思い出した。レイとヤマトは困惑しながらも俺の話に耳を傾ける。
「もっと早めに言え。今なら走れば間に合うだろう。」
呆れつつもヤマトは助言をしてくれる。
「いやー、それがさ。俺、実は一時間目の前に生徒指導室に呼び出されていて。」
「ほ、ほう。」
いきなり俺の話についていけなくなったのか、ヤマトは組んでいた足を解いて俺を凝視する。俺が言いたいことが何かわかったのか、レイは一人で小さく笑い始めた。
「でも俺は、生徒指導室の場所がわからなくてさ。だからすっぽかして授業を受けたんだ。」
「は、はぁ。」
「そしたら、俺を呼び出したはずの担任が普通に教室に来て、そのままハードスケジュールで学校を出発したんだよ。だからもしかしたら、その埋め合わせとして放課後とかに呼び出されるかもしれないんだ!」
「…あぁ。」
ヤマトは机に肘をついて、まじまじと俺の顔を見つめた。俺の変な話に一つ一つ丁寧に相づちを打ってくれているところを見るに、どうやらヤマトはかなり真面目な人みたいだ。そんなやりとりを隣で見ていたレイは、笑いながらヤマトに言う。
「あまりコイツの話を本気にするなよ? いちいち反応してたら、いくらヤマトと言えど脳がいくつあっても足りないぞ。」
レイの話を聞いて、ヤマトが微妙な反応をする。ヤマトは足を組み直した。
「…ハル。」
「ん?」
「おそらくだが、お前の先生は場を和ませるためにそのような事を言ったのではないか?」
ちゃんと真面目な回答だったため、俺は一瞬会話に追いつけなくなる。賢い人って、最後まで反応してくれるんだ。
「だから、お前は生徒指導室に行かなくていいだろう。…多分な。何をしでかしたかによるだろうが。」
ヤマトはチラリと俺の顔を覗き込む。俺はヘラヘラと笑ってごまかした。ヤマトは俺をジロジロと見ながら沈黙する。俺もその様子を受けて、黙ることにした。
「…というかさー、ヤマトー、」
それでもやっぱり何も話さずにじっと待っていられないので、ヤマトの反応に期待しながら話しかける。
「どうした。」
ヤマトは案の定、こんな俺の話ですらちゃんと聞いてくれる。
「ヤマトさ、俺のことだけ『お前』って呼んでるよな?」
「…」
ヤマトはついに相づちを打たなくなった。
「桐塚のことは『桐塚』、レイとダニエルのことは『君』、それで俺の時だけ『お前』。」
俺が右手で丁寧にカウントしながら証拠をヤマトに突きつける。ヤマトは呆れきった顔をしながら俺を見ている。おいおい、さっきまでのイケメンスマイルはどこへ行ってしまったんだ?
「そういう所があるから、お前って呼ばれるんじゃないのか?」
ヤマトに正論を言われ、逆に俺の方が傷ついてしまった。確かに、一理ある。レイはホストみたいな笑い方をした後、無駄にサラサラの長髪をかきあげた。
「ヤマト君、意外とキューティーだね!」
レイがヤマトを茶化す。レイはさっきから、ヤマトや桐塚のことを合コン相手の女性でもあるかのように扱っている。ヤマトはぶすっとした顔で、きつくレイに言い放った。
「お前もいい加減にしろ。」
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