第二話 出逢い

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第二話 出逢い

 二人の影を遠くから眺めながら、唾をゆっくり飲み込む。 「…ダニエル、もしかしてさ。」  レイは言葉を紡いだ。 「あれが、ヤマトさん、なんじゃねぇの…?」  ヤマト…って、朝にレイとかダニエルとかが言ってた、何とか学園の生徒だっけ。 「あぁ、間違いない。ヤマト様…ヤマト様で、多分間違ねぇ。」  ダニエルは数秒間黙った後、その場にうずくまった。いきなり座り込んだため、俺は思わずダニエルの顔を覗きこんでしまう。ダニエルはぎゅっと目を瞑っていて、こめかみに力を溜め込んでいた。気分を害したかもと思って、どうしようか悩んでいると、急にダニエルは立ち上がった。 「~~っ、マジかぁ!!!」  ガッツポーズを決めて、物凄く嬉しそうに笑顔を浮かべる。 「まさかローラド学園のヤマト様にお会いできるなんて! 俺って運が良い~~!!」  あぁそうだった、ローラド学園だ。って言っても、ローラド学園については一切知らないのだけれど。俺は改めて彼らを見た。高級そうな真っ白のシャツを身にまとい、紫髪の方は黒いコートを羽織り、黒髪の方は黒いコートをきっちりと着こなしてきた。…あれ、どっちがヤマトっていう人なのかな。 「あ、ハルは知らないんだよな。ヤマト様は紫色の髪の方で、めっちゃカリスマ性があるんだよ。それで、賢くてイケメン。俺は写真越しで後ろ姿しか見たことないんだけど、本当に神々しかった…あぁ、間近で見てぇ…。」  ダニエルが早口で喋るためよく聞き取れなかったのだが、とりあえずヤマトは紫髪であることは伝わった。ふとレイと目が合う。レイは俺の目を見た後、ふっと苦笑いした。 「んー、じゃあ、会いにいく?」  正直に言って、全く興味ないのだが、ダニエルがそこまで言うのならば会ってみても良いのではないか、と思った。俺は軽い気持ちでダニエルを誘う。するとパッと顔を上げて、俺をじっと見つめた。思わず俺は驚いてしまった。 「良いの!? 本当に良いのか!?」  ダニエルにガシッと肩を両手で掴まる。ダニエルの蛇みたいな目に正面から睨まれ、まごつきながらも、おう、とだけ呟く。ダニエルはそれを了承の言葉だと受け取ったのか、俺の肩から手を離して自身の服装を整え始めた。俺は耳の裏を爪で軽く引っかきながら、レイの方へ視線を移す。レイはダニエルを遠い目で見て笑っていた。 「でも、俺なんかが行ったところで、ヤマト様の記憶には残らないんだろうなぁ…。」  ダニエルは楽しんでいると思っていたのに、いきなり情けない声を出した。 「お前、一体どうしたんだよ?」  レイはダニエルに問いながらダニエルの側に駆け寄る。ダニエルは女子みたいに体をクヨクヨさせた後、今言った事が心配なんだよ、と意味分からない事をほざいている。レイはため息混じりでダニエルを見やる。レイは呆れているのだろうか。 「まぁー、分からないことは、ない。」  レイは目を薄く閉じながら優しく呟く。なるほど、レイもヤマトが気になっているんだ。ダニエルに乗せられているだけかと思っていたんだけど、どうやら違うみたいである。そんなにヤマトっていう奴はカッコイイのか? ダニエルやレイが気になるほどに? 「じゃあさ、印象付けたら良いんじゃね。」  俺は思いつきでダニエルに提案する。 「印象付け?」 「そう。俺が次世代のヤマトだー、なんて言ってやれば、絶対に記憶に残るでしょ。」 「あーー、ね。」  冗談混じりに言っただけだったが、思いのほかダニエルは真面目に考えているみたいだ。俺は何も考えずに、ただじっとダニエルを見る。ダニエルは少し黙った後、パッと顔をあげた。 「良いじゃん!」 「マジ? 本気か?」  レイは呆れた目でダニエルに問いかけた。 「何かおかしいのか?」  問いを問いで返すダニエルにため息をはいて、それから丁寧に説明した。 「俺らの演技力じゃ、絶対にできないだろ? むしろ、今後関わらないようにされるだろ。」  レイの答えに妙に納得してしまう。レイは俺達三人の中で一番賢いから、客観的な回答をしてくれる。特に国語のレベルは校内で非常に高いため、日常生活においてもレイは役に立つ。ただ、副教科を除く他の教科は酷くできないため、やっぱりレイもバカである。 「じゃあ、無理か…」  振り出しに戻ったのか、ダニエルは深く頭を悩ませた。確かにレイの意見も一理ある。いきなり俺達みたいな奴が変な事を言ってきたら怪しすぎるだろう。  ではどうしようか、となった時、やっぱり俺は新しい意見を思いつくことができなかった。どうしても先ほどの意見で押し切りたいのである。レイによって批判され、諦めようとしているのにも関わらずに、その意見が優れていると考えてしまうのだ。  そんな事を考えていたら、ふとある事を思い出した。 「あ、でもさ、俺、小さい頃に演劇習ってたんだよ。」 「演劇?」  胡散臭そうにレイが問う。 「そう、演劇。」  確かに俺は、小学生低学年の時、テレビに出てくる子役に憧れて子役を目指していたことがあるのだ。ただ、俺は生まれつき魔法が下手だったから、子役にはなれなかった。  魔法とはこの世界にある攻撃方法の一つで、ものすごく昔に誰かによって開発された。頭の中で式を描き、それを具現化することで自然の力を引き寄せるという原理らしい。ただし魔法は勉強と同じほど難しくて、バカな俺達はそれすらできない。式もありすぎて覚えられない。いや、この世にある式を全て覚えることは不可能だから、基本的な式しか習わないのだけど。それでもバカな奴は簡単な式すら覚えられないから、ケンカなどにおいても身体的な力で争いあう。だけど魔法の力というのは身体的な力とは比べものにならないくらい膨大だから、どうしても魔法が使える奴が優位になるのだ。言い換えれば、賢い人ほど魔法は得意なのだ。勉強と本当に同じである。 「嘘っぽいな…ハルが演劇なんてできるわけないだろ。顔に出るに決まってる。」  レイは嘲笑うように俺を睨みつける。俺は少し焦りながらもできるだけ喋った。 「本当だよ! 今はやってないけど。」 「じゃあどれくらいしてたんだよ。」 「さ…3ヶ月はしたけど?」 「素人同然じゃねぇか!」  レイとダニエルから総ツッコミを食らい、為す術もなく黙り込んでしまう。 「何もやってないお前らには言われたくねぇ。やるならさっさとやろうぜ? どうせ他に何も思いつかないでしょ。」 「まぁ…。」 「早く行こうぜ、俺についてこいよ。」  俺は不良だった中学生の頃の俺を思い出しながら、傲慢に囁いた。レイとダニエルは呆れつつも、満更ではない。 「まぁ良いけどよ。俺らは何役なんだ?」  レイに答えるように、俺は話した。 「執事と奴隷、とかじゃね?」  それから少し討論した後、俺らはさっき見た二人を追いかけるように下山した。オリエンテーリングを完全に忘れたまま。
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