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「あれか…?」
「ハル、静かにしろ。」
ついに例の二人に大接近できた。ヤマトっていう紫髪の奴と、隣にいる謎の黒髪の男。二人とも後ろ姿しか見えないためどういう奴かわからないけど。一応、作戦はさっき決めた。まず全員で何気なく現れ、それから、俺がヤマト以上の存在だー、とか言う。それで記憶に残して、仲良くなる、というもの。まぁ要するにアドリブである。
今は草木の茂みに身を潜めている。この距離であれば彼らの会話も自然に聞こえる。だが、緊張して何も聞こえない。
「じゃあ…行くぞ。」
レイとダニエルに耳打ちした後、俺は堂々とした歩き方で二人に近づいた。レイとダニエルは黙ったまま俺についてきてくれている。
それから、前にいる二人が俺達に気づき、振り向こうとした。俺は何か話そうとして、口を小さく開ける。
その時、ガンと頭の中から殴られたような感覚がして、俺は意識を失った。
しばらくして、俺は目を覚ました。五分ほど眠っていたような感覚である。ぼーっとして天井を眺めていたのだが、何となく違和感がある天井だった。その時我に帰って、ぱっと起き上がった。
辺りを軽く見渡す。俺は謎の室内にいて、長いソファーに寝かされていた。俺の隣にはレイとダニエルも座っている。俺が寝そべることができ、レイもダニエルも座れるソファーだなんて、どれほど長いのだろう。
「起きた?」
俺の様子に気づいた隣のレイが話しかける。
「まぁ、うん。」
部屋は俺の自室ほどの大きさで、ソファーは隅の壁の端から端まである。壁と天井は滑らかな木造で、ソファーはふわふわした黒色。何製かはわからない。目の前に机があって、その先に椅子が一つ置かれてある。さらにその椅子の向こうには扉がある。この室内に窓はないみたいだ。ただ、少し寒い。
「レイー、寒いー。魔法で温めろよー。」
「は? 俺らがそんな魔法を使えるわけねぇだろうが。」
お父さんならすぐに期待に応えてくれるのに、なんてことを思いながら、あくびを一つする。その様子を見てレイは笑う。
「ってか、マジでさっきの演技力はすごかったぜ。いつもこんなにダラダラしてるのに、どうしてあんなに人が変わるんだ?」
「え? さっき?」
俺はあやふやな記憶を辿る。確か山にいて、それからヤマトっていう奴に会いに行って、それから…。
…それから?
「俺、何もしてねぇぞ? ヤマトは?」
「は? さっき会っただろ。ダニエルなんて、ずっと上の空だぜ。」
そう言われて、ダニエルの方を見る。レイは気を遣って首を少し後ろに動かしてくれた。見ると、ダニエルはどこかをぼーっと見ながら、ぶつぶつと何かを呟いていた。
「何だあれ?」
「知るか。」
レイは前屈みになった。
「俺、本当に何もしてない…。」
誰にも聞こえないほど小さく呟く。俺はヤマトっていう人に会いに行こうとしたら気絶してしまったはず。だから今、俺はソファーで寝ているんじゃないのか?
俺はソファーの上で胡座をかいて、しばらくぼんやりしていた。すると、コンコンと扉をノックする音がなった。
「あ、どうぞ!」
レイが大きな声を出す。ダニエルも我に帰ったようだ、扉の方を見ている。誰が来たのだろう。レイとダニエルはどうやら、誰が来たのかは知っているらしい。
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