第二話 出逢い

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「まぁ、そんなに落ち込むな。君達の演技力は素晴らしかったからな、俺としても是非仲を深めたいんだ。青髪の君、名前は?」 「お、俺? え、えっと」  ヤマトに名前を聞かれ、びっくりする。この部屋の中で、青髪なのは俺だけなのだ。 「俺はハル・フレア・クレイン。17才だ。誕生日は4月6日。昔は子役をしてた! 好きな教科は旧帝国語で、嫌いな教科は数学。魔法のテストはそこまで良くないけど、魔法を使うことは楽しくて好きだ! それから…」  俺は必死に自分のことについて伝えていると、ふいにヤマトは楽しそうに笑った。 「ははは! いや、話している途中にすまないな。第一印象とあまりにかけ離れているから、驚いた。」  ヤマトは穏やかな瞳で俺を見つめる。腕を組んで、足を組んだ。かなりリラックスしているようである。 「ほう、俺と同級生だっのか。子役をしていたのだな、ならば魔法は得意だろう。俳優に魔法は欠かせないものだからな。」  俺はその言葉を聞いて、少し気まずくなる。絶対に3ヶ月しかしていなかったとは言えないからだ。俳優は魔法を駆使して、雰囲気を作ったり、アクション映画で欠かせない大掛かりな魔法を使えなければならない。そのため、芸能界ではどうしても魔法が重要になってくる。  さらに、全ての人間に常に纏っている魔力というものが存在する。魔力の量は人によってそれぞれなのだが、共通点があるのだ。それは魔力を魔法に乗せることで、魔法の威力は大きくなるということだ。また、魔力が多ければ多いほど、その人の雰囲気が良くなるらしい。例えば、決して容姿が良いとは言えないないのに、何故か可愛い女子っているだろう。その女子はきっと、生まれつき魔力が多い体質なのだ。ヤマトと桐塚の場合は元々容姿が良いから何とも言えないのだが、おそらくヤマトの方が魔力が多いと思う。桐塚にも、妖しさというか、格好いい雰囲気はあるものの、ヤマトほどガツンとは来ない。それでも二人とも格好いいのは確かなのだが…まぁ要するに、魔力が多ければイケメン、もしくは美女ということだ。 「にしても、帝国語が得意か…中々に珍しい事を言う。帝国語が苦手な人は多いからな。」 「あ、そう?」  自信がある事を褒められ、何となく機嫌が良くなる。と言っても、俺の学校の帝国語のテストといえば、せいぜい自己紹介程度だけど。それでも帝国語のテストだけは、昔から高得点を取れるのである。 「帝国語は5000年前までの言語だろう。それが理解できるとは凄いことだぞ。」  そういえば帝国語は、何万年前に確立された言語なんだっけ。一万年前だっけ? よく覚えてない。それで何千年か前に新しい言語を作って、今に至るらしい。あぁ、一度気がつけば気になって仕方がなくなる。これなら歴史の授業をちゃんと聞いておけば良かった。仕方ない、ここは潔く質問するか。ヤマトも桐塚も凄く賢いと思うのだが、こんなことに時間をかけるのは、俺でもちょっと気が引ける。なるべくスマートに会話を終わらせるには、桐塚に質問した方が良いんじゃないのか。桐塚は多分、俺が何を言っても薄い反応しかしないだろう。 「あ、あの、桐塚?」 「はい。」  予想通り、桐塚は薄っぺらい表情しか作らず薄っぺらい返事しかしない。まるで感情がこもっていない鉄の人形だ。 「帝国語って、何年前までの言語?」 「帝国語が廃止され新たな言語で統一されたのが旧暦2303年なので、今から丁度5000年前までですね。」 「へぇ…」  辞書のような返答を聞いて頷いた。そうか、ちょうど今から5000年前だったんだな。などと考えていると、ヤマトが声を押し殺しながら笑い悶えていることに気がついた。ヤマトの可憐さからは想像できないような姿である。一体どうしたのだろうか。 「ヤマトー?」  俺が顔を覗き込むように顔を屈める。ヤマトは片手で口元をおさえながら、体をプルプルと震わせていた。でも何だろう、この大物感。まるで、たまにバラエティ番組に出てくる高齢の女優みたいな風格がする。 「いや、すまない。はは、今俺が言っただろうに。聞こえなかったか?」 「え? 言ってたっけ、そんなこと。」  そう言うとヤマトはついに笑いを堪えることができずに、顔を赤くさせながら大笑いした。 「は、ははは~」  俺もできるだけ空気を読んで無理して笑ってみせる。実を言うと、俺は演技は下手なので変な笑い方しかできない。それでもできるだけ声を出して笑った。  それがヤマトの笑いの壷に入ったのか、ヤマトはさらに笑った。顔を真っ赤に染めて、そして目の縁に涙を溜め込む。腹を両手で抱えて机に突っ伏した。未だに心にもない声で俺が笑い続けていると、桐塚に恐ろしい顔で睨まれてしまったので、大人しく口を閉じた。そういう表情もできるのなら、最初から言ってよ。  それでも薄い反応しかしないはずの桐塚に睨まれ続けているので、怖くなってレイやダニエルに桐塚から睨まれないための案を求めようとした。そして隣へ視線を移したのだが、おかしいのだ。なんと、レイとダニエルも笑い転げていたのである。 「ちょっと。レイ、ダニエル?」  俺が問いかけると、もっとレイとダニエルは爆笑する。何となくだけど、二人の笑い声はヤマトの時よりも下品に感じてしまう。肝心のヤマトは、息もできないくらに体を震わせ、顔を机に伏せていた。流石にマズいんじゃねぇの。 「ヤマト様、しっかり気を保ってください。」  桐塚が仲介し、ヤマトの背に手を当てたり声をかけたりして、笑い悶えていたヤマトを助ける。桐塚の恐ろしい視線がなくなった事に安堵しつつ、俺は俺でレイとダニエルの笑いを止めさせようと努力した。とにかくレイやダニエルに話しかけて、笑いが止まるように仕向けた。 「お前が黙れよ」  そうダニエルに言われて、はっとなる。俺が皆を笑かして、場の雰囲気を壊してしまったんじゃないのか。 「俺が悪かったのか?」 「今更気づくなよ。」  レイにみぞおちを軽く人差し指で突かれ、うっ、と声が出た。そんなやり取りを見たヤマトは鼻で小さく笑った。ヤマトの方を改めて見ると、威厳がある落ち着いた姿に戻っていた。隣には相変わらずポーカーフェイスの桐塚が立っている。きっと、桐塚が頑張ってヤマトを落ち着かせたのだろう。 「久しぶりに面白かったものでな。ついつい取り乱して悪かった。自己紹介の続きでもしようではないか。」  ヤマトは仕切り直して、場をまとめる。俺はきちんとソファーに座って話を聞いた。
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