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十分後、体育館裏。
一方的に殴られていた。
無抵抗主義というわけではない。後ろから羽交い絞めにされていたりするわけでもない。振り上げた拳が当たらない。それだけなのだ。
歯がゆい。悔しい。また眼鏡が飛ばされる。側頭部に拳が来て、よろめいたところに足払いが来る。
「おら、立てよ」
乱暴に背中から引き起こされ、振り向かされ、殴られる。よろめいて後ろに下がったところで、また別の拳。
ぼやけた視界。隅がかすかに赤い。男子生徒たちの背後に、なにかでかい影が現れる。
物も言わずいきなり近くの男子を掴み、柔道の技で投げ飛ばした。飛ばされた先の男子も倒れる。集団の中に踏み込み、嵐のように蹴りを放つ。
圧倒的だった。
わずか一、二分で、男子生徒たちは蜘蛛の子を散らすようにいなくなった。
「おまえ、学習能力ねえのかよ」
オオノの声だった。意外に難しい言葉を使う。
「眼鏡だってもうボロボロじゃねえか」
軽く胸に一撃。見下ろすと、オオノの手の中に自分の眼鏡。
「お前に助けられる筋合いはない」
オオノは鼻で笑った。
「図書委員が泣きついてきたから様子見に来ただけだ。ただ通りがかったんなら笑ってみてるさ」
「でも、まあ、ありがとう」
メガネをかける。左のレンズにヒビ。
「前の学校でどうだったか知らないがな、ここでは隅っこで下向いてろ。処世術ってやつだ」
「それでどうなる」
「弱者の平和だ」
「そのまま隅っこで下向いてるだけの大人になるのか? それが平和か?」
「知らねえよ鬱陶しい。保健室にでも行っとけ。頭から血でてんぞ」
左側頭部に触れた。目じりのあたりが切れている。傷の様子を探っているうちに、オオノはいなくなっていた。
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