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「あの、昨日はありがとうございました」  図書室。カウンターで「ギャングオブニューヨーク」の文庫を借りようとしたら、図書委員にそう言われた。  そういえば、昨日と同じ図書委員だ。 「俺はクソの役にも立ってない」 「そんなことはないです。私怖くて何もできませんでした。感謝してます」  くだらない。どうでもいい。だが、そういえば。 「なんでオオノなんかを呼んだんだ。職員室に駆け込めばよかったんじゃないか?」 「そのつもりだったんですけど、行く途中で、本返しに来たオオノさんにばったり会って、オオノさんが、どうしたんだって、聞いてくれて」 「待て、あいつ、本なんか読むのか」 「同じクラスなのに知らないんですか? オオノさん、頭良いんですよ」  そう言われてみれば、そんな気はする。 「まあ別に、俺には関係ない」  貸出手続きが終わり、本を手渡される。 「あの、もう一ついいですか」  図書委員が言った。そのとき、初めて相手の顔を見た。  飾り気のないボブヘアの、無害な小動物めいた顔立ちをしている。二年生。澄川、と名札にある。 「只野さん、何か書いてません?」 「そりゃ、誰でも何かは書くだろう」 「私、目がいいんで、ここからでも共用PCの画面見えちゃうんですよね。テキスト本文までは無理だけど、サイトのバナーぐらいなら読めるんです」 「それで?」 「小説、書いてますよね」 「だから何だよ」  澄川はひとつ息を吸いこみ、目を閉じ、開き、まっすぐこちらを見て、言った。 「文芸部、入ってくれませんか?」    
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