行き倒れの者

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「寮長、この人に鍵あげてください。」 「…はいどーぞ。てか湊くんあ、き、とって呼んでよ」 名前を言った後、彩野さんはおもむろに舌打ちをしてぱっと明里に鍵を投げる。 「大抵の人は名前で呼んでないんで。すいません。」 光は中等部からの付き合いがあるから、雪はよく一緒にいるから。祐はとにかく怖いから。明里は祐と苗字一緒で紛らわしいから。 まあそんくらい。他の人は、よく覚えてない。 明里は何故か鍵を受け取ったまま俺を見てボーッとしている。早く彩野さんの元から離れたいのに、何してるんだこの馬鹿は。 「?明里、早くして。行くよ」 俺がそう言うと急に明里が抱きついてくる。 「ツンデレか!?!?可愛すぎるやろ!!好きやあああぁあぁっ!」 「いや無理」 「なんでや!」 なんだよ急に、驚かせんな。てか耳痛い、声でかい。お前が王道主人公なんじゃね。 「だって今大抵の人は名前で呼ばないって!!!」 「お前弟いるだろ、ややこしいじゃん」 「なんやぁ……そんなことかぁ…」 と明里はしょもしょもと元気をなくして俺をするっと離した。 「部屋どこ、」 俺は明里の手から鍵を奪って番号を見る。607と書いてある。 「2つとなりじゃん」 「ほんま!?遊びいっていい?」 急にぽわあああっと元気を取り戻して、はしゃぎ出す明里。 「あー…ダメ。多分雪が怒る。」 「…雪?」 ただでさえ帰りちょっと遅いから。あの子過保護過ぎるんだよねえ。 「同室者」 「…ふーん?」 なにその反応。 6階について自分の部屋のベルを鳴らす。鍵忘れたから。ドアが少し開いて俺が誰か確認すると雪が抱きついて来た。 「んへ…湊お帰り…」 俺の頬にちゅっちゅっとキスしてくる。 ちょっと、ここまだ玄関にも満たないってば。 「ちょ雪離して…」 と俺が言うと雪が俺を抱きしめる力が強くなる。 「……………誰」 「ん~みっちゃんの仲良しさんやで〜」 めんどくさそうに明里が言う声がする。 誰が誰と仲良しだって?全然仲良くないけど? 「妬けてまうなぁ…まあ、まだええけど」 なんだって?聞こえない。ちゃんと喋って。 「みっちゃんまたな。あと首のそれ、気いつけや~」 「?首…?」 疑問に思っていると雪に抱きかかえられて部屋に入れられる。明里に帰りの挨拶をする猶予も与えてくれなかった。 抱き上げられて目線が雪より少し高くなる。 「雪、俺の首なんかついてる?」 「うん…鏡」 と少し笑う雪に靴を脱がされ、部屋の中に下ろされた。
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